送る人たちの寂しさも
「でも、よく受け入れてくれたわね、Shintaroさん」
「そうですわね、Nanaの決心も堅いようですから、引き留めても無理だと思ったんでしょうね」
「Nanaはもう来週発つの?」
「それだったら今週末に旅立ちパーティーでもしましょうか」
「うん、特に仲の良かった常連のお客様にも声をかけて、ぱ~っとやる?」
カフェに香ばしい香りが立ち込めると空気が変わったようにゆっくりと流れる
「奥のホールの片付けは終わりましたよ、外のライト落としますね」
「お願いね」
「さっ、どうぞ」
「うん、いい香りね」
「Miyuさんのお好きなエチオピアモカとキリマンジャロのブレンドですわよ」
ゆっくりと息を吐いて、ひと口
「ほぅ、かなり香ばしいわね、酸味やフルーティーさもあるのに、濃厚ね、深煎りなの?」
「うふふ、Miyuさんも段々、Nanaに感化されて来てるじゃないですか?今までは感想とか、コーヒーの分析なんてしなかったですわよ」
「うん、そうね、それは事実だわ」
ドアベルが鳴り、いつもの様にShintaroさんが看板を持って入って来た
「お疲れ様です、ここに置けばいいですか?」
「いつもすみませんね、そこに置いて下さいな」
ドアベルを鳴らして慌てて入って来たNana
「ありがとう、いつもごめんね、重いのに」
「大丈夫だよ、でも、Nanaにとってはちょっと重いかな」
「Nana、裏の冷蔵庫にドリンクを冷やしておいてくれるかしら?」
「はーい」
「Shintaroさん、Nanaが出発する前に少しお休みをと思っているんですの、二人でどこかへ出掛けたりするのはどうかしら」
「お気遣いありがとうございます、Nanaが何て言うかな、彼女が望めばですけど」
「また、Shintaro君は優しいねぇ、もうちょっと強引に行くのもたまには良いんじゃないの?」
「う~ん、強引にですか?」
「そうですわよ、いつも振り回されているんですから、そのくらいしても良いですわよ」
「ああ、そうそう、週末にね、Nanaのためのちょっとしたパーティーを、と思っているだけど、何かいいアイデアがあったら教えてね、考えておいてくれる」
「パーティーアイデアですか?わかりました、ちょっと考えてみます」
「エリート広告マンだから、そこら辺のアイデアなんていっぱいあるでしょうけど、Nanaの事はShintaro君が一番、良くわかっているでしょうからね」
「そうですわね、Nanaの喜ぶ顔が見られれば、送る人たちの寂しさもちょっとは楽になるでしょうね」
「Nanaが喜ぶ事と言えば、バイクか飛行機か、後は食べ物でしょうね、あっ、そうだ、ちょっといいアイデア浮かびました」
「まぁ、早いわね」
裏のパントリールームからNanaが戻って来た
「オーナー、コーラが後、10本くらいになってました、明日、注文しておきますね」
「そうね、頼んだわね」
「何の話し?楽しそうに話してたけど?」
「さっ、Shintaroさん、コーヒーどうぞ、Nanaも、もう座ってコーヒーお飲みなさいな」
「ありがとうございます」
「Shintaroさんには、酸味が効いてる感じだけど、香ばしい濃い目の風味だからお疲れの時には良いんじゃないかしら?」
「ええ、美味しいですね、会社帰りにこのコーヒーはいいですね」
「Nana、どうしたの?何か探しているの?」
カバンの中から何かを取り出してカウンターに置く
「Shintaroさん、これ、行かない?」
色とりどりのグラスが並んでいるパンフレット
「ん?ガラスの器展?」
「うん、本当はオーナーも行けたらいいんだけど」
「素敵なグラスね、いってらっしゃいな」
「Nana、食器に興味があるの?」
「うん、Miyuさんもどうですか?」
「いいわよ、Shintaro君と二人でどうぞ」
「Shintaroさんが前にくれたブルーの綺麗なグラスもとっても気に入ってるんだ」
「そうか、いいよ、一緒に行こう」
「その日はお休みにしていいから、美味しいレストランでお食事とかもしてくるといいわね」
「Shintaroさん行きたいお店とかある?」
「そうだな、ちょっと探しておくよ」
「うん、ありがとう」
「いいわね、素敵なデートじゃないの」
嬉しそうにニッコリと微笑む二人の姿が、儚くも、力強くも感じられるオーナーKeiとMiyuさんなのでした
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