綺麗に終わりにしよう
流れる景色が秋色に変わったのが夜でも感じられる街の景色、Shintaroさんが長袖の裾を少し折り曲げている
「風がひんやりするね」
「うん、あのね、ちょっと話したい事があって」
「うん、ここじゃ話しにくい事?」
「そんな事ないけど」
「そうか、ちょっと停められる所がいい?」
そう言って、港へ渡る橋の方へ車を走らせる
「どうしたの?何か深刻な話し?」
「あのね、この前の話しだけど」
「ん?この前の話しっていうと」
「Shintaroさんのマンションのお部屋の事」
「あぁ、あの話しか、まぁ、そんなに急いで答えを出さなくてもいいさ」
キラキラと光る港の灯りが見える場所に車を停める
「あのね、行きたいって思う」
「ん?引っ越して来るって事?」
「うん」
「ホント?いいの?Nanaは来ないだろうって思っていたんだけど」
「今度、アメリカから帰って来た時は、Shintaroさんの所に行きたい」
驚いた顔で見つめるShintaroさんの瞳がゆらゆらと揺れている
「そうか」
「うん」
港の船の出向の汽笛がエコーの様にいつまでも聞こえている
「大学に戻るの?」
「うん、まだ勉強したい事もあるし、もう一度一人でやり直したい事があるの」
「うん、いつ?」
「来週立つ事にした」
「また、急だな」
「いつもShintaroさんを頼ってばかりだったけど、自分の足でちゃんと立って生きていける様になりたい、お互いが自立していて初めて支え合う事も出来ると思うから」
風の音と港の音だけが流れる時間がどのくらい経っただろう
「わかった」
「怒ってる?」
「怒ってなんかいないさ、どうして?怒ったりするはずないだろう?」
「ごめん」
「謝る必要もないさ、Nanaが決める事だから」
「でも、必ず、ちゃんと強くなって帰って来る、Shintaroさんの所に、だから」
「なぁ、Nana、そういう約束はしないでおこう、これ以上、Nanaを縛る事はしたくないんだ」
「え?」
「今まで、俺は結局Nanaを縛って来たんだ、少し前からその事に気が付き始めた、Nanaがね、言った言葉、俺がNanaのためとか言っていつも納得させられているって、自分の足で立っている様な気がしないって言われた時、俺のエゴなんだってね」
「そんな、そんな意味で言ったんじゃない、私はいつかShintaroさんがいなくなるって思っていたの、鏡の中から出られたらきっとそれで役目が終わったと思うんじゃないかって、だから、居なくなった後が怖かった」
「でも、今でも一緒にいるだろう?」
「上手く言えないけど、いつまでも幸せにしてもらっているだけでいいのかな?今の私はShintaroさんを幸せにしてあげられるのかなって」
「Nanaも俺が七色の光を持つ前世の母上の事を重ねてるって思ってる?Miyuさんやオーナーはそう思っているだろ?だから、Nanaにこだわっているって言ってるだろう?」
「んん、それは良くわからない、けど、ずっと兄上として私を守って来てくれたでしょう?だから」
「俺は一度も、Nanaを妹とは思った事はないよ」
言葉を失うNana
「私、自分に自信がないの、いつだって、何をやっても上手く出来ないし、周りの人に助けてもらってばかりで」
「母上が亡くなって、俺はいつも一人であの草原で泣いていた、Nanaはいつも俺を探しに来ては、花を摘んで冠を作ってくれたの憶えてる?そして小さな手で俺の手を握っていてくれた」
「うん、憶えてるよ、あの草原ね、小川が流れていて、いつも馬に乗る練習をしたし、弓の練習もしたね」
「あの時から俺の生きる理由はNanaだけだった」
「うん、弓で撃たれた最後の時もShintaroさんの腕の中にいたんだよね、そして、Shintaroさんはそのまま背後から切られて、私達はずっと一緒だった」
「Nana、俺達のこの関係も、前世からの兄妹の様な関係も、全部、綺麗に終わりにしよう、そして、Nanaは自分の思う通り、自由に生きればいい」
「Shintaroさん」
「変な風にとらないで欲しいんだ、意地悪で言ってるんじゃないんだよ、それに俺達はまだまだ、やらなければならない事がある、そういう意味では一生同志として戦う仲間だろう」
「うん、わかってる」
「俺達が本当に運命の相手なら、約束なんかしなくても、必ずまた、一緒になれる時が来る」
「うん、ありがとう」
「ふっ、ありがとうか、なんだかな、お礼言われるところでもないんだけどね、しっかし、俺もまだまだだな、Nanaに支えてあげようって思われるとはなぁ、あはは」
「ごめん」
「冗談だよ、俺ももっともっと強くなるさ、もっと上を目指して大きくなるよ」
「うん、あっ、私、追いつけなくなるから、あんまり頑張りすぎないでね」
「ははは、どうかな?すぐ抜かされるかもよ?」
「少し歩かない?」
夜景の見える綺麗な橋を手を繋いで歩く二人の後ろ姿は、七色とシルバーの光が溶け合う様に輝いているのでした
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