陽の光に当てても映らない
「若様、どちらへ行かれるのですか?今日はどなたもこの門からお入り頂く事はかないません」
「そうか、一年に一回行われる道具の清めの日であったな、道を変えよう」
(幼いころ、何度か、迷い込んだ事があった、確か、秘密の通路からもこの屋敷には入れたはず)
「さぁ、終了の報告の時間だ、急いで集合しなければ」
「え?それじゃ、棚の上を急いで拭いて終わりにするか」
「それなら、後からでいいだろう、取り敢えず行かないと」
人影は消えて、辺りは静かになった
そうっと足音を忍ばせ、扉を開けるといくつもの引き出しがある
七番目の引き出しを開けるとそこには静かに眠る鏡がある、見るからに普通ではない鏡
(これか?)仰々しく飾られた鏡蓋をはずすと鈍い光がぼんやりしている
(ふ~ん、これがおばあ様から昔話しでよく聞いた鏡なのか?)
どやどやと足音が聞こえて係りの者たちが戻って来る気配がする
そうっと懐にいれると煙の様に立ち去った
「責任者は鍵をかって鍵箱へもどす様に」
「残りの拭き掃除はどうする?」
「まぁ、そんなに汚れていないだろう?もう、鍵をかって戻った方がいいんじゃないか」
引き出しの中は確認される事なく扉が閉められた
(この鏡は普通には綺麗に映らないな、どうやって使うんだろう?光にかざすと何かが起こるのか?この蓋に何か書いてあるけど、読めないな)鏡と鏡蓋は紐で繋がれている
歩いている内に宮殿のはずれにある訓練場が見えて来た
(あの訓練生は去年、大会で戦っていたな、確か、首席で入ったとか、どんな訓練してるんだろう?)
「今日の訓練はこれまで、各自、明日の準備をして解散、居残り訓練をするものは申し出る様に」
「はい、武術の練習をもう少ししたいので許可をお願いします」【Nana】
「今日もか?いつも居残り練習とは感心だな、最近は、随分腕を上げて来たじゃないか」【指導兵1】
「おぅ、そうだな、練習相手がいいからな、しっかり訓練してもらえ」【指導兵2】
「先輩方のご指導のお陰です」【Nana】
「まだ頑張るの?今日は剣術もやったし、馬にも乗ったから疲れたんじゃないの?」【Shintaro】
「大丈夫、武術が一番難しいから、もっと頑張って、早く強くなりたいの」【Nana】
「ん、じゃ、ちゃっちゃと終わらせるか、手加減なしでいくぞ」【Shintaro】
「お願いします」【Nana】
(あれ、女か?すごいな、でも、なぜ、女が訓練してるんだ?)
バタッ、ドスン「いった~い」【Nana】
「大丈夫か?」【Shintaro】
「足、打っちゃったみたい」【Nana】
「歩ける?今日はこのくらいにしておこう、明日の練習にひびくと困るだろ?休んだ方がいいか?」【Shintaro】
「ううん、大丈夫、帰って母上様に薬草を張ってもらう」【Nana】
「そうだな、ほら」かがんで背を向ける【Shintaro】
「え?なに?いいよ、歩ける」【Nana】
「明日の訓練休ませるぞ?」しぶしぶ背に寄りかかる
「じゃ、しっかりつかまって、走るぞ」【Shintaro】
「え~怖いよ、ちょっと、早いって~」【Nana】
「あはは、馬に乗っても平気なのに、これは怖いのか?」【Shintaro】
(なんだあいつら、兄妹か?)
あくる日も、また、あくる日も若様は訓練場を見下ろせる東屋からこっそりと見ていた
そして、あの事件のあった日の事である
「若様、訓練場は誰もいません」
「どうしたんだろう?どこか違う場所で訓練しているのか?」
「あっ、そういえば、今日は王様の狩りの下見に訓練生も同行しているんじゃないですか」
「だとしたら、帰りはもう日が暮れてからになるな」
「残念ですね、せっかく若様が気になるという女人がみられると思ったのに」
「そうですよ、ずっと若様は女人に興味がないと思っておりましたのに」
「皆、子供の頃からの付き合いですが、若様がまさかね、女人をこっそり見に来ていたとは」
「そなたら、そのくらいにしないか、気になるとは言っていない、変わった女人がいると言ったのだ」
「照れなくてもいいじゃないですか、あはは」
「ところで、そなたら、この鏡を知っておるか?」
「なんですか?その鏡は」
「七色の光を放ち、その力は何人もを自由に操る能力をもたらす、そして、相手の力を封じ込める事が出来る」
「もしや、それは、なぜ、その鏡を持っておられるのですか」
「そんな恐ろしい物、若様、大事になります、早くお戻しにならないと」
「だが、何も映らんのだ、どう使ったら良いのか、陽の光に当てても映らない、なんの光を当てたらよいのか」
「しかし、本当に存在するとは、話しには聞いた事がありますが」
「私も祖父から聞いた事があります、その昔、その鏡に最後に映った者を封じ込め、鏡を割り、その不思議な鏡蓋で蓋をするとその鏡の力は失われる、そして、代わりに、最後に映ったものが鏡となる」
「単なる昔話しだと思っていました、でも、この鏡って王様しか使えないんじゃないですか」
「この鏡蓋に書いてある文字が読めるか?」
「どれどれ?何かの呪文みたいですが、わかりませんね」
「王様しか使えないなら持っていても仕方ないじゃないですか、戻した方がいいですよ、見つかったら大変です」
「年に一度の清めの日にしか鍵は開かないから返せない」
若様は吐き捨てる様にそういうと、皆は顔を見合わせ言葉を失うのでした
コメント