自身が鏡その物なんです
カフェの壁時計が時を告げ、カフェの一日も終わりに近づいている
ドアベルが鳴り、Miyuさんのご来店
「Miyuさん、すみません、忙しいのに呼んじゃって」
「いいわよ、まぁ、顔見たかったし、それとあなたに聞きたい事あったのよ」
「お疲れ様ですわね、ささ、お掛け下さいな、すぐ、コーヒー淹れますわね」
「今日はまた、一段とフルーティーな香りじゃない?」
「久しぶりに、Miyuさんのためにゆったりとした気持ちで淹れましたわ、最近、あわただしかったから」
「Shintaro君に昼間会ったわよ」
「あ~そうなんですか」
「うん、ちょっと変更で調整が必要だったのよね、それで来てもらったわ」
「お待たせしました、さぁ、どうぞ」
「あ~美味しいわ、軽やかでマイルドね、夜はこのくらいの酸味が良いわ」
「今の車のライト、Shintaroさんじゃないかしら?」
ドアベルが鳴り、Shintaroさんがご来店
「昨日は、お気遣いありがとうございました」
「別にお気遣いも何もしてないわよ、でもさ、早く仲直りしてくれないとさ、色々と心配じゃない?」
「そうですわよ、仲良くしてくれないとね」
「ごめんなさい、私、これからは軽率な行動は慎みます」
「ささ、Shintaroさんもどうぞ、今日はMiyuさんのお好みのモカ系ですけど、いいかしら」
「はい、頂きます、最近、コーヒーの酸味も美味しく感じるんですよね、以前は苦手でしたけど」
「それは、オーナーの淹れ方が上手だからよ」
「ふふ、褒めすぎですわよ」
「ところで、Nanaってさ、色、コントロール出来るの?出さない様にとか」
「いきなりですわね、Miyuさんったら」
急な直球に言葉を探すが、相変わらずの訳の分からない返答のNana
「私、色が無いんです、あるんだけど無いんです」
「Nanaが最初に来た時、見えていたと錯覚していたけど、よく考えてみたら、まるで煙に巻かれていた様だったわね」
「基本、こっちの系統だとベージュの様なオフホワイト系がベースでしょ、まぁ、それにちょっと色が混じっているって感じ?」
「そうですわね、どうしてなのかしらねぇ?」
「Nanaは色が無いのではなくて、七色、自由に変わるんです、それが彼女の特徴なんですが、今は、自分ではコントロールが出来ない」
「今は?出来ない?」
「はい、Nanaは記憶を映す事が出来る、誰のでも」
「やっぱり、そうだったの」
「王妃様はご存じでしたか?」
「ええ、七星の鏡の事ですわね、でも、あれは、七星の道具の中のひとつで、しかも王族というか王様しか使えないんじゃないかしら?道具といってもあれはね、本当は武器に使われる物なんですのよ」
「え?なに?じゃさ、Nanaがその鏡を持っているって事?」
「いえ、Nana自身が鏡その物なんです」
「まさか、そんな事があるの?」
「だから、狙われる、記憶を必要とする人は悪い人ばかりとは限りませんが、悪用する人がほとんどだと思います」
「あ~なんか、段々、分かって来たわ、そもそもね、鍵ってさ、何?って思っていたんだけどそれと何か関係があるのね?」
「私達が古い記憶を鮮明に見る事が出来るのは、Nanaがいるからなんです」
「そうよね、鍵だけでは夢だったり、何となくぼんやりとしているわね、実際に見て来たようにはならないよね」
「そうなんです、私も自分だけで鍵を握ってもはっきり見えない事が多い、でも、Nanaと二人で鍵を握ると魂ごと持って行かれる様な感じ、実際に映画の中にいるみたいに鮮明に見える」
「なるほどね、そういう事なんだ」
「私達は鍵を通して記憶を辿っていますが、何も持たなくても出来る人がいます、特別な力を持った人」
「え?そうなの」
「実は、以前にも似たような事があって、今回で二度目なんです、その時は初めてで、一体何がどうなっているのかよくわからなかったんですが、Nanaは魂がどんどん抜けて行った様になって」
「それで、Shintaroさんは今回の事を怒っていたのね、ただ、Jinさんとデートした事を怒っているとは思えなかったのよ、だって、浮気したわけではないしね、でも、Jinさんが只物ではない事がわかったからでしょ?」
「あの、別にデートしたんじゃないんで」
「あら、二人で飛行機見に行ったなんて聞いたらデートかと思うわよ」
「まぁまぁ、元母娘喧嘩はそのくらいに」
「わかった事は、世界には私達と同じ様な人がいるって事と、鍵だけではなく、それは人によって違うという事なんです」
「そういえば、Sakiさんは鍵は持っていなかった、その代わりに代々受け継がれた古文書があって、その一部が無いそうよ、それを探しているんだって」
「ねぇ、七つあるって事じゃないかしら?それと、鍵ね、他にもまだある様な気がするんですよ、だって、普通、スペアを作るとしたら一式で作りますわよね?」
「どうしても全部の鍵がいるんでしょうか?今の分だけじゃダメなのかな、気が遠くなりそう」
「わからないわ、でも、Rin様に会う必要があるかしらと思っているんですよ」
「あ~あの美しい方、でも、また来るとは言ったけど、連絡の取りようがないですよね」
「ええ、でもひとつ方法はありますわ」
「Ren君か?あの子も訳ありだよね、最初は敵かと思う程渦巻いていて、Nanaの事を心配したけど」
「お姉様、さすがですわね、この短期間でよくそこまで見える様になられて」
「ん~なんか、そのやり取り、ちょっとキモイ」
Shintaroさんが爆笑している
「また、ちょっと行ってみる必要がありそうね?古い記憶の中へ、その前にこのコーヒーだけ飲ませてよね」
少し冷めたコーヒーの残りを飲み干して、深呼吸をするMiyuさんなのでした
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