同じじゃないかしら?
疲れているのに頭の芯が妙に冴えていて、中々眠りにつけなかったShintaroさんも、いつの間にか深い眠りについて目覚めたのはもうお昼を過ぎた頃だった
リビングには綺麗に畳んだタオルケットとテーブルにはパーキングに使った分の小銭と『迷惑かけてごめんなさい』そう書かれたメモが残されていた
まだ、身体のだるさと力が入らない心が纏わりついてくる
昨夜からの着信が何件も入っていたが、開く気にはならない、そのままテーブルにおいて、着替えてジムへと向かう
(ちゃんとカフェへ行ったんだろうか?目の腫れは引いたのか?何も食べていないみたいだったけど大丈夫か)
時折、そんな事が頭を過っては消えて行った
汗を流してすっきりした後、近くのショップで買い物をし、食事をとる
窓から明るい光が差し込んで青い空が広がっているのに、気持ちは一向に晴れない、ただ、ぼんやりと一日が過ぎて行った
忙しい日常がまた始まると、あっという間に一週間が過ぎ、そして、二週間が過ぎようとしていた木曜日
「Shintaro君?Sakiさんからオーナーへ連絡が入ってね、明日の夜、カフェへいらっしゃるそうよ、仕事終わってからでもいいから顔出して、話しは聞いておくから」
いつもの調子のMiyuさんからの電話(そうだった、その件もあったか、ゴタゴタしていて忘れてたな)
金曜日は朝から忙しく、夕方、会社に戻ってからも対応に追われ、会社を出たのはもう20時を過ぎていた
久しぶりに訪れるカフェケイズへの道のりが息苦しく感じる(毎日の様に通っていた道なのに、ちょっと来なかっただけで、景色が変わって見えるな)
ドアベルが鳴り、Shintaroさんが扉を開けると、そこには見慣れた暖かいベージュのオーラに包まれた人たちがいつもの様に迎え入れてくれる
「遅くなってすみません、ちょっとご無沙汰しました」
「あら、Shintaroさん、お疲れ様ですわね、ささ、どうぞ、お食事まだでしょう?すぐ温めますわね」
「やだ、Shintaro君、ちょっと痩せちゃったんじゃないの?しばらく見ないうちに」
「Shintaroさん、その節はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「いえいえ、それで、お話しの方は」
「もう、私達が聞いたわ、Shintaro君にも後から教えてあげるから、取り敢えず、食事をしなさいな」
「いつもランチの残りでごめんなさいね、今日はたっぷり野菜と豆のコンソメ仕立てスープですよ、フランスパンよりパニーニの方が合うわ、一緒に召し上がれ、それとポークチャップもあるわよ」
「あぁ~美味しそうだな、頂きます」
すっかり、打ち解けて仲良く話しをしているオーナーKei、MiyuさんとSakiさん、三人を取り囲む様に深く香ばしい香りが広がって行く
「Shintaroさん、食後のコーヒーですわよ、Shintaroさんのお好きなブルーマウンテンじゃないけどいいかしら、どうぞ」
「あの、Shintaroさん、もう二度とあんな事はしません、私どうかしていたんです、本当にすみませんでした」
「わかってくれて良かった」
「それに、皆さん、同じ仲間なんですね、驚きました、これからは私にも協力させて下さい」
「やはりそうでしたか、そんな気がしていたんです」
「姉の記憶はまだ、戻ってはいませんが、その方がいいのかもしれません」
「そうね、また、その辺はさ、皆で相談しましょうよ、ね」
「Miyuさん、ありがとうございます、そろそろ、私、失礼します、すっかりご馳走になってしまって」
「いいんですのよ、いつでもいらっしゃって下さいな」
「それから、Nanaさんにちゃんとお詫びしたいので、また来ます、もう全部見えていたと思うので、話しは必要ないかもしれませんが、Nanaさんには、勝てないなって、彼女に不思議な力があるのもわかります」
何度も頭を下げて扉の向こうへ消えて行った
「いい子ね、つきものが取れて良かったわよ」
さっきから、気が付いていた、Nanaがいない
「Nanaね、今日は体調を崩していてね、早めに上がってもらったのよ」
「自分がいるとShintaro君が来にくいと思ったんじゃないの」
「ふふ、そうかもしれませんね、でも、このところずっとカフェも忙しくて、自分の仕事の方も結構予定が入っていたみたいだから、だいぶ、疲れているとは思いますよ」
「そうね、毎日、よく頑張ってると思うわ」
「ね、Shintaroさん、このスープ、まだ、残ってるから帰りに寄って持って行って下さらないかしら?Nana、このスープ大好きなんですのよ」
「そうねぇ、通り道だし、帰りにちらっと寄って様子を見て来てくれたらいいわね」
しばらく絶句していたShintaroさん
「もうそろそろ、勘弁してあげてくれないかしら?日に日に弱って行く様で心配なんですの、NanaにはShintaroさんが必要なんですよ、それは、Shintaroさんにとっても同じじゃないかしら?」
Miyuさんも黙って頷く
「わかりました、お二人にご心配おかけしてすみません」
「あら、いいのよ、そんな心配だなんてねぇ、オーナー?」
「そうですよ、じゃ、これ、準備しましたわ、横にしない様にね、それと、Sakiさんが持って来てくれたお菓子もね、お願いしますね」
追い立てられる様にカフェを後にしたShintaroさんは、口実を作ってくれたお節介な二人にちょっと苦笑いをして車を走らせるのでした
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