翼がきら~んと光る
今にも泣きだしそうな重たい雲が広がっている空を見上げる
「天気予報で警報級の大雨になるって言ってましたよ」
「何時頃から降ってくるのかしらね、今日はお客様も少ないかしらね」
ドアベルが鳴り、常連のお客様、Jinさんがご来店
「ぽつぽつと落ちて来たよ」
「あら、もう降って来たんですね」
「ざ~っと来るかな」
「あっ、Jinさん、いらっしゃいませ、雨降って来ました?」
「やぁ、Nanaちゃん、久しぶりだね、この前来た時、会えなかったな」
「はい、丁度、私が仕事でちょっと中抜けしていた時ですね」
香ばしさとフルーティーな香りが辺りに立ち込めて行く
「さぁ、どうぞ、Jinさんのお好きなブレンドですよ」
「うん、良い香りだね」そう言って優しく微笑みひと口
「あ~美味しいな、オーナーのコーヒーを飲むとホッとするな」
「Jinさん、今日は荷物が多いですね」
「うん、ちょっと研修でね、その資料やらで一杯なんだよ」
「そうなんですね、大変」
「Nanaちゃんもいつも大きなバッグ持ってるよね」
「私のバッグの中は仕事の物も、食べるものも、他にも色々でごちゃごちゃです」
「ははは、そうなんだ、最近仕事は忙しいの?」
「まぁまぁ、ってとこです」
「Nanaちゃんも設計だもんな、同業だよね」
「同業だなんて、とんでもないですよぉ、Jinさんみたいに難しいのじゃないですから」
航空機の設計のお仕事をされているJinさんは飛行機のマニアックな話しをよくしてくれる、旅客機から戦闘機、ヘリの話しまでレパートリーが広く、飛行機好きのNanaと話が合う
今日は航空管制交信の話しで一頻り盛り上がっている
「まぁ、横文字ばかりですわね、さっぱりですわよ」
「え~オーナーも一度聞いてみて下さいよ、結構面白いですよ」
「Jinさんもアメリカの大学に行かれてたのでしょう?いいですわね、言葉がわかるって」
「管制官とパイロットのやり取りが臨場感があっていいんですよ」
「何を言っているのかわからないのに?」そう言って手を広げて首を傾げ、肩をすくめるジェスチャー
最近、Nanaの真似をしているのか、このジェスチャーをよくしている
「今度、空港に無線持って聞きに行こうか、Nanaちゃん」
「いいですね、そういえば、最近、飛行機も乗ってないから空港へは行ってないな」
「そうか、飛行機見たくなっちゃったでしょ?」
「見たいですよぉ、一日、ず~っと見ていても飽きないですよね」
「一日いても飽きないなんて、余程、好きなのね」
「航空機って本当にかっこいいですよ、ね?Jinさん」
「うんうん、そうだね」
「晴れの日に翼がきら~んとか光るの、最高じゃないですか」
「だな、話してたらすぐにでも見に行きたくなちゃうな、いつ行こうか」
「う~ん、そうですねぇ、カフェも忙しいしな、特に週末はね」
「そうかぁ、そうそう、この写真、まだ見てなかったよね?」
「わぁ、ブルーインパルスじゃないですか~すっごくカッコよく撮れてますね、それ欲しいなぁ、待ち受けにしようかな」
「この写真を?あはは、そこまで喜んでくれるのはNanaちゃんくらいだよ」
「そうかな?ちょっと変わってるのかな?私、あはっ」
にこやかに二人の様子を見ているKeiだが、どことなく胸騒ぎを感じるのは何故だろう
確かに、すらっとした爽やかなイケメンのJinさんはShintaroさんに引けを取らない、この二人の様子をShintaroさんが見たらどう思うのか、いやいや、そういう不安ともちょっと違う
警戒心が強いNanaが、趣味が合うというだけで、一緒に空港へ行く約束をさらっとしてしまう事にも、不思議な力に引き寄せられている様に感じる
この時感じた不安は後に、明らかになって行くのでした
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