大きなため息
「お休みの所ごめんなさいね」
「いえいえ、休みは寝てるくらいですから、丁度コーヒー飲みたかったんで良かったです」
「そう?それなら、お休みの日はコーヒーを飲みに来てくださいな」
「土日はカフェは忙しいですよ」
「まぁ、Nanaったら、何て事かしら」
「いつもの事なんで、慣れてますから」そう言って軽くNanaの肩を押す
「あ、看板入れるの忘れてた、ライトは消えてますよね」ちょっと肩をすくめて知らん顔をする
ドアベルが鳴り、Miyuさんがご来店
「ごめん、遅くなって、Shintaro君、こちらが呼び出したのに」
「全然、大丈夫です」
「取り敢えず、コーヒー」
「はいはい、直ぐ、淹れますよ」
カフェに静かな夜が戻って来て、甘く深いコーヒーの良い香りが漂う
「あ~ホント、良い香りだわ」そう言って小さくため息をついてひと口
「ん~まろやかね~美味しいわ」
「さ、Shintaroさんもどうぞ、今日はShintaroさんの好きなブルーマウンテンですよ」
「ありがとうございます、美味しいです」
「この前は大変だったわね、渋滞に巻き込まれて大丈夫だったの?」
「ええ、でも、あの後、渋滞は解消されたので思ったより早く戻って来られました」
「そうなの、良かったわね」
中々、本題に入るきっかけが掴めない雰囲気にただ、コーヒーの香りが彷徨う
それを察する様にShintaroさんがきっかけを作る
「あの、私に何かお話しがあったんですよね」
「うんうん、そうなの、ちょっとね、最近のNanaの様子が心配だったから、それでね、何を悩んでいるのかっていう事を聞いたのよ、怪我をした事件ね」
しばらく時間が止まったかの様な沈黙が纏わりついている
Nanaは、また、魂を抜かれた様にぼんやりと、どこか、他人事の様に遠い世界を見ている
「そうなんですか…」
「ごめんなさいね、Nanaを責めないで下さいな、ただ、同じような事が起きてはと心配なんです、気を悪くなさらないで」
「そうよ、Shintaro君を責めてるわけじゃないのよ、お節介だと思うけど、もっと大きな怪我とかになったら困るじゃない?」
「ええ、勿論、それはわかっています」
「はぁ…」いきなり、空を見上げて、大きなため息をつくNana
思いがけないNanaの態度にあっけにとられ、Miyuさんと顔を見合わせる
「ご心配をお掛けして申し訳ないです、ただ、この件は少しNanaと話しをさせてもらえませんか、オーナーとMiyuさんには、その後、ちゃんと説明しますから」
「どうせ、Shintaroさんの言う事はわかってる、自分が悪いって、私のためを思ってとか、正直、もうそういうのウンザリなんだよね、面倒くさいの嫌だからもういいよ」
「Nana、ちょっとそれは言い過ぎですよ?」
「だって、本当の事はどうせ言ってはくれないでしょう?また、いつもの様に上手~く丸め込まれて納得させられて終わり」
「Shintaroさん、後で、ちゃんと説明してくださるわね」
「はい」
「そうだよね、やっぱり、ちゃんと二人で話し合った方がいいわ、Nanaも思っている事をちゃんと伝えなさいよ、どうせ、何とか、なんて言ってないで」
小さく頷いて席を立つとトボトボとShintaroさんの待つ扉の向こうへ消えて行った
「ふふ、あの小娘にしてやられた感ありよね、案外、頭の回転いいわね」
「そうですわね」そう言ってまた、コーヒーをひと口
「ねね、今日、この後、ちょっと行かない?美味しいワインでも飲みたい気分よ」
「いいですわね、この坂を上った先にちょっと良い所がありますよ、でも少しだけですよ、明日もありますから」
二人、坂をゆっくりと歩きながら、遠く街の光が揺れて、涼しい風が隣を過ぎて行くのを感じるのでした
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