美味しい過ぎて止まらない
最後のお客様をお見送りして空を見上げる、薄い雲がかかって低くもたれかかっている様に見える
「雲行きが怪しいわね、持ってくれるといいけど、どうかしらね」
「そうですね、明日は傘立てが必要ですね」
「ちょっと早いけど、外のライト消して看板いれてね、Katsuさんが中のプランターを交換に来てくれる事になっているから」
「は~い、了解でーす」
コーヒーの甘く深い香りが広がって来る
「あ~いい香りですね、一日の終わりって感じがします」
「さ、終わったら座ってコーヒーお飲みなさい、軽くお夜食作っておいたから」
「わぁ~嬉しい、小腹が空いてたんです、何だろうな?ん?もしかして、この香りは!」
「ふふ、そうよ、前に聞いたから、あなた達が喜ぶと思って」
「泣いちゃいそうです、タコスですね、大好き~!」
「小麦ファイバーのトルティーヤよ、低カロリーだから、夜食べても負担は少ないわ」
「オーナーすごい!そこまで考えてくれたんですか、Shintaroさんにからかわれなくてすみますよ」
「わぁ、美味しそう、トマト、レタス、タコミート、チーズ、これですよ、これ!アメリカでよく食べてました」
「厚切りベーコンを焼いておいたから、お好みでね、細切りにしておいたわよ」
「ベーコン!合いそうですね、これだけで食べても美味しい」
ドアベルが鳴り、Katsuさんが顔を覗かせる
「ちょっと、Nanaちゃん、扉を持っていてくれるかい?」
「あ、はーい」
プランターを台車に載せて重そうに押して進み、プランターを取り換えて行く
「手伝いますよ」
「いやいや、Nanaちゃんには無理だよ、重いんだよ」
「Katsuさん、力持ちですね」
ドアベルが鳴り、Shintaroさんが入って来た
「こんばんは、おっ!これは、タコスじゃないですか!」
「お疲れ様ですね、そうですよ、あなた達が好きだって言っていたから作ってみたのよ」
「うわぁ、嬉しいな、ありがとうございます」
「あ、Shintaroさん、お帰りなさい、タコスに感激してるんでしょう?ふふ」
「プランターは全部入れ替えたよ、これでしばらくはいいね」
「Katsuさん、ありがとうございました、さぁ、お掛けになってコーヒー淹れましたわよ、こちら、Shintaroさんですよ」
Shintaroさんの笑顔がさっと驚きに変わる、そしてKeiの顔を見るとニッコリと頷くKei
「あ、こんばんは、はじめまして」
「いつも、話しは聞いているよ、Shintaro君、Nanaちゃんをよろしくね」
「あっ、はい」
「さぁ、どうぞ、皆さん召し上がれ」
不思議そうな顔でShintaroさんの顔を見つめているNana、Keiの方を見ると目で「後でね」
「コーヒー美味しいなぁ、まろやかで、甘み、苦みのバランスがほど良いね、酸味が効いていて爽やかだ」
「それは良かったですわ」
「Nanaちゃん、余程お腹がすいているのかい?」
「うんうん、(頷く)」ジェスチャーで口の中が一杯で話せないと…
「あはは、口の周りにソースが付いてるよ、小さな子みたいだな」
「だってぇ~美味しい過ぎて止まらないんですよ!」
「ふふ、喜んでもらえて良かったわ」
Shintaroさんも美味しそうに食べながら、にこやかにKatsuさんとNanaのやり取りを眺めている
遠い遠い昔に、こんなひと時の幸せがあったのだろうか、少なくともShintaroさんのもう一つの記憶の中にある確かなものは誇り高き父の姿であって欲しいと願うのでした
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