幸せそうな笑顔
Romiさんがエプロンを外しながらすっかり西の空が染まっている扉の外へ、窓越しにこちらを見て手を振る姿に振り返すと立ち止まってこちらを見てニッコリ、扉を開けて出てみるとゆっくりと坂を上って来るNanaの姿が映る
「帰って来たわね、丁度いいタイミングじゃない」
「そうね、今日は戻らなくても良いと言っておいたんだけど」
「ふふ、そうなの?でも帰って来るんだね、じゃ、行くわ」
「ありがとう、お疲れ様でした」
「あ~Romiさん、来てくれてたんですね、ありがとうございます」
「お帰り、Nanaちゃんもお疲れ様でした、またね」
「はい、ToyoさんとFujiさんによろしく」
「オーナーまでお出迎えなんて、私って幸せ者ですね」
「お帰りなさい、今日は帰ってゆっくりしたら良かったのよ」
「オーナーのコーヒーが私を呼んでるんですよ」
「はいはい、すぐ淹れましょうね、もうしばらくしたら会社帰りのお客様もいらっしゃるでしょうから」
静かになったカフェにコーヒーを淹れる音が響いて、うっとりする様な華やかな香りが広がる
「あ~疲れがふっとびますよ、今日は私の好きなフルーティー系のコーヒーですね」
「良く分かったわね、お仕事の方は上手くいったのかしら?」
「そうですね、普通に、あ~生き返る、美味し過ぎるよ~」
「そう?嬉しいけど、奥の席にお客様がいらっしゃるわよ」
「げげっ、気が付かなくてすみません」奥のお客様に頭を下げている
席を立ってこちらへニコニコ顔
「いいよ、大丈夫さ、もう帰るところだったんだよ、オーナーのコーヒーは思わず声がでるよね、わかるよ」
後ろ手にグーサインで扉の向こうに消えて行く
「オーナー、ホントに素敵なカフェですね、お客様もみんな良い人」
「そうね、感謝しなくてはね」
「今日は打ち合わせで忙しかったでしょう?すみませんでした」
「大丈夫よ、最終サンプルも素敵だったわよ」
「そうですか、あの、大丈夫でしたか?」
「ええ、何事も無く、無事終わりましたよ」
「それなら良かった」
カフェの前の通りを行き交う人もまばらになり、仕事帰りのお客様で賑わうひと時も駆け足で過ぎて、何気ないカフェの一日も終わりに近づいて行く
駐車場に車が入って来るのが見えて、Shintaroさんのシルエットが窓に映ると何かちょっと違う
ドアベルを鳴らして入って来たShintaroさんが大きな袋を持って入って来た
不思議そうな顔で見つめるNana
「さぁ、お待ちかねのお届け物です」
「え?もしかして、それって私に?バッグですか?きゃ~やった~」
「あははは、ほ~ら、ほら」バッグを高く上げてからかっている
「え?ええ?ちょっと~早く見せてよ~ねぇ、もう、なによぉ~とどかな~い、オーナー!」
「Shintaroさんのそんな姿、初めてみたわね、また絶交されるわよ」
「すみません、つい、お約束なんで」
「可愛い!オーナー、ねね、似合います?どうですか?」
「良く似合ってるわよ」
「Shintaroさん、写真撮って、早く、早く」
一頻りきゃっきゃと騒いだ二人が顔を寄せてスマホを見ている
「Shintaroさん、お疲れ様ですね、コーヒーどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「私にも見せてくれる?どんな感じかしら?あら、随分撮ったのね、素敵じゃない?モデルさんのより、こちらの方を採用したくなっちゃうわね」
順に見て行くと最後の写真はバッグも何も入っていない、Nanaの幸せそうな笑顔の写真、思わずちらりとShintaroさんの顔を見る
「ん?何かおかしいのありました?」
「いいえ、プロ並みですよ、上手ね」
「モデルがいいからでしょう?」
「うんうん、そうだね、そういう事にしておきますか、あははは」
こんな写真を撮れるのは世界でたった一人の運命の人、プロのカメラマンでも撮る事は出来ないと思う一枚なのでした

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