感じの良いカフェ
駐車場から小走りにエントランスへ向かう姿が見える
ドアベルが鳴り、駆け込んで来たのは常連のお客様、Shigeさん、通りにある病院のお医者様だ
「結構な雨が降ってるよ」
「あらあら、ささ、このタオルで拭いて下さいな、夜勤明けですか?お疲れ様です」
「ありがとう、しばらくお天気良くないみたいだね」
「梅雨のはしりですわね」
コーヒーの深く華やかな香りが辺りに立ち込める
「お待たせしました、どうぞ」
「ああ、いい香りだね」
まず、香りを楽しんで、ゆっくりとひと口
「美味しいなぁ、オーナーのコーヒーは疲れが吹っ飛ぶね」
「あ~Shigeさん、いらっしゃいませ」
「おお、Nanaちゃんもお疲れさん」
「Shigeさん、夜勤明けでしょ?早く帰って寝たほうがいいのに」
「そうなんだけどさ、まぁ、そう言わないでよ、Nanaちゃん、オーナーのコーヒーが飲みたくなるんだから」
「ふふ、ありがとうございます、そんな風に言って頂けるのは嬉しいですわね」
「そりゃ、そうでしょ、オーナーのコーヒーは魔法だからね~」
「あ~、私が言おうと思ったのに、先に言っちゃだめじゃん」
「あはは、Nanaちゃんには負けるよ」
「Shigeさんから教えてもらったって看護師さんが何人か時々来て下さってますよ、ありがたい事ですわね」
「ああ、そうみたいだね、感じの良いカフェだって言っていたよ」
「そうなんだ、私、会ってるかな?」
「Nanaが仕事で中抜けしてる時に何度か来て下さったかしらね」
「そっか、残念」
Shigeさんはいつも穏やかで、常に冷静、沈着、紳士な振る舞い、お医者様らしくもあり、らしくもない
偉ぶるところのない普通のおじさんなのだ
以前、たまたま、カフェにいらっしゃっている時に地震が来た事があった
一時、騒然となり、慌てるお客様達の中、ただ一人、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた
慌てて、持っていた卵を落としてカウンターから飛び出してしまったNanaに「大丈夫、落ち着いて」そう声を掛けて、「出口は確保しないとね」そう言ってエントランスの扉を開けて下さった
「あの時は結構長く揺れていて怖かったですよぉ」
「ホントね、Shigeさんがいて下さって心強かったですわ」
「そんな事あったかな?はは、忘れたよ」
「もう、お医者様なんだから頭いいはずでしょう?忘れっぽいんだから」
「まあ、Nana、この子ったら」
「あはは、いいの、いいの、Nanaちゃんは娘みたいなもんだからね」
「ね~Shigeさん、前世ではお父さんだったもんねぇ」
「まあ、すみませんね、ホントにもう」
肩をすぼめてぺろっと舌を出して笑っているNana、時々、ヒヤヒヤさせられる
事実、彼女には見えているのだろう、前世を知っているというのは時にはやっかいなものだと思うのでした
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