耳元で囁くから
昨日まで続いていた初夏の様な天気とは変わって、少し肌寒く感じるどんよりとした曇り空
「お天気どうかしら、そろそろ降ってくるのかしらね」
今にも泣きだしそうな空を見上げている
「天気予報では夜遅くなってから降ってくるような事を言ってましたよ」
カフェなど、お店は天気がお客様の数に影響を及ぼす
「念のため、傘立て出しておきますか」
「そうね、そうしましょうか」
昨夜の事、オーナーはどんな風に感じたのだろう、いつも思うのだけれど、オーナーは何も聞いて来ないし、深く追求する事もしない、気遣い?それとも、それが大人の対応なの?そんな事を思いながらも、珍しく自分のとった行動が良かったのか、それとも良くなかったのか、ずっと気になっていた
そろそろお茶の時間も過ぎる頃、賑やかなお客様の笑い声が去り、カフェに静けさが戻って来た
「お天気がこんなだと、早く暗くなるかしらね、ちょっと小腹が空かない?そうだわ、今日、Konさんがクッキーを下さったの、おやつにって、頂きましょうか」
「いいですね、コーヒーも飲みたいです、珍しいですね、オーナーが甘い物なんて」
「たまにはね、いいじゃない」
「私は毎日でもいいですけどね、それとも、私を気遣ってくれているんですか」
「そうねぇ、ちょっと気にはなっているわよ、元気なふりをしているだけじゃないかしらってね」
「え?そう見えますか?そうかな、やっぱりちょっと元気無いのかな」
「あれから二人で帰って何を話したのかな、って思うし、それに私には宣戦布告の様にも思えたし、この前の怪我をした時の事、そこに理由があるんじゃないかなって思えて」
今日のコーヒーは一層、深く沈み込む様に苦く、切ない香りに感じられる
「一つ話すと、全部話してしまいたくなっちゃうんですよね、でも、そうするときっと誰もが私がおかしいって、意味不明とかって思うだろうし、理解してもらえないと思うんですよね、ま、別に誰かにわかってもらいたいとも思ってないし、いいんですけどね」
「らしくない事いうじゃない?普段から誰かにわかってもらいたいなんて思っている様に見えないけど?」
「あ~なんか、それ、ひど~い、でも、同じ事いわれたんですよね、前にも」
「ふふ、あら、そうなの、それは、わかってもらいたくて、わかってもらおうとして、期待に応えてくれる人に出会えなくて失望したからって聞こえるわね」
オーナーには全てを見透かされている様に思えて、言葉を失ってしまった
過去に諦めた記憶が、期待しない様にって耳元で囁くから、いつしかそんな風に思う様になってしまったのかもしれない
「でも、私、基本、大丈夫なんです、全然、誰かに何とかしてもらおうなんて思っていないから」
「ボクサーさんはどう?素敵だと思うけど?」
「ええ?ボクサーさんですか?どうして?」
「ボクサーさんはNanaの事が好きなんじゃないかしら?違うかな?」
「いや~無い、無い、あり得ませんよ、あははは」
「そうなんだ」
なぜ、あり得ないのか、そう思う根拠はわからないけれど、少なくとも、気付かないというよりか、Nanaの心に入い込む余地がないって言っている様に聞こえるのでした
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