あのね、大好き過ぎて
あまり時間が無いとはわかっているのに、過去と現在が混在する中で色々な出来事が錯綜している
「オーナーは聞かないんですね、細かい事」
ちょっと他人事の様に、ちょっとあきらめている様に、独り言の様にも聞こえる
「聞いてもいいのかしら?言いたくない事は言わなくてもいいんじゃない?」
何とも大人の答えが返って来る、まぁ、その辺は予想通りでもある
ドアベルが鳴り、Miyuさんが顔を覗かせる
「ねぇ、まだ、食べる事出来る?」
「あら、お食事まだでした?いいですよ、どうぞ」
「Nana、怪我したって?大丈夫?」
「大丈夫です、ほら、もうこんなに平気です」
「ちょっと、そんなにぴょんぴょん跳ねて見せなくてもいいわよ」
「ご心配おかけしましたね、それで、この時間まで残業ですか?」
「今日は出張で今帰って来たところ」
ワンプレートでささっと用意された食事を見てさすがだなと頷く
「さあ、お待たせしました、どうぞ」
「美味しそう~いただきます」
色合いが鮮やかなサラダとオムライスドライカレーバージョン
オムレツの真ん中を切ると、中はまだ、とろっとチーズと半熟状態の卵が食欲をそそる
ライスはさっとオリーブオイルで炒めてドーナツ状に、汁無のドライカレーが中心によそわれている
「少しスパイシーなドライカレーが半熟状態の卵でマイルドになってるわね」
「美味しいでしょ?オーナーの魔法みたいなワンプレートディッシュ、あっという間にこんなすごいの作れちゃうんですよぉ」
「Shintaro君はまだ来てないの?」
「ああ、もうそんな時間ですね、そろそろかしらね」
「食器の片付けは終わりましたよ、外のライト落として来ますね」
「そうね、コーヒー淹れましょうね」
コーヒーの深いコクが空気を揺らし、カップに注ぐ音だけが静かに響いて、甘く優しい香りが広がって今日も一日が終わって行く
「ねぇ、NanaはShintaro君が好きなの?」
Miyuさんが唐突かつ、単刀直入に切り込む、こんなのは普通の人には出来ないだろうが、彼女だけは別だ
ごく、自然にさらっと入って行く
「Miyuさん、大胆ですわね、私でも聞きたくて、でも聞けないでいるのに、ふふ」
「うーん、好きですよ、っていうか、好きっていうのかな、それとはちょっと違うかな、あまりに近すぎて、知り過ぎているから」
思わず、Miyuさんと顔を見合わせる、今日のNanaはどうかしてる?
「ふーん、そんなに素直に言っちゃってくれるの」
「だって、Miyuさんとオーナーには隠し事なんかしませんよ、私達の歴史は長く深いんですから」
ちょっとキョトンとしているMiyuさん、でもすぐに、何かに気付いた様に頷く
「そうね、きっとずっと前から、例えば前世から深い繋がりがあるんでしょうね」
少し、ヒヤヒヤしながら言葉を探す
「まあ、じゃ、Nanaにとってお兄さんって感覚に近いのかな?ねえ、頼りがいあるしね」
「うーん、そんなんでも無いです、あのね、大好き過ぎて、Shintaroさんになりたいんです」
「へ?え?え?は?うぁはははは」
相変わらず、と言いたいところだが、いつにも増して不思議が強い、わけの分からない返答に堪えきれず笑ってしまった
ふと、気配に振り向くと、何とも言えない表情で立っているShintaroさん、思わず、笑うしかない
「だそうよ、Shintaro君」
思いがけず、本人に聞かれてしまって気まずいかと思いきや、何事も無かったかの様にしら~っとコーヒーを飲んでいるNanaなのでした
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