本物だけがあれば十分
昼間の日差しと日が暮れてからの肌寒さが季節の変わり目を感じさせる
「Nanaちゃん、大丈夫かい?転んだんだって?気をつけないと」
カウンターにKonさんがいて、いつもの笑顔と会話が続いている
「大丈夫だよ、大した事ないから」
足を少し引きずりながらホールを歩く姿に常連のお客様方が声を掛ける
ドアベルが鳴り、常連のお客様、Hideさんがご来店
「あら、お久しぶりですね、お元気でした?」
「ちょっとご無沙汰してしまいました」
「どのくらいぶりでしょうね」
「オーナーのコーヒーが恋しくてねぇ」
「あらあら、でもお元気そうで何よりです」
「ちょっとね、色々調べ物や、探し物があってね、あちこち忙しくしていたものだからね」
Hideさんは大学で史学の講師をしている、そして、同時に古い美術品の研究者でもある
フルーツの様なフレッシュで甘酸っぱい香りとコーヒーのほろ苦い香りが辺りに広がって行く
「さあ、お待たせしました、どうぞ」
目を細めて、うんうん、この香りとばかりに頷いて、ひと口
「あ~やっぱり、オーナーの淹れてくれるコーヒーが一番だね、美味しいよ」
そして、ゆっくりとコーヒーを満喫するかの様な静かな時間を楽しんでいる
Hideさんは手相や人相、名前の占いなども好きな人で、他のお客様に頼まれて見る事もあったが、当たらないと評判だった
「当たっても、当たらなくても、楽しくね」が口癖だ
「Nanaちゃんも見てあげようか」
「私はあまり興味が無いから他の人見てあげて下さい」
「そうかい?残念だなぁ、興味ないのかぁ」
実は、Nanaにはお抱え占い師がいたからである
手芸用品で教室を開いているToyoさんだ
Toyoさんは昔から不思議な体験が多い、Toyoさんのお母さんもそうだった
Nanaはアメリカでも度々、アンティークショップのおばあさんや、露天商のおじいさんからも声を掛けられたりしていた
本人は自然に、人でも物でも直感的にそれが本物かどうかを見分ける能力を持っていると感じていた
その根拠はどこから来るのかと尋ねた事があった
「そんなの簡単です、本物だけがあれば十分だからですよ」
相変わらず、やっぱり良くわからない答えが返って来た、が、なぜか、きっとそうなんでしょうねって思わせてしまう所が只物ではない
Nanaの背中を押したと思われる女性は、どうやら、Shintaroさんに関わる人であろう事を知っている空気感が気がかりなのでした
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