暗闇に浮かぶシルエット
例の忘れ物はまだ、引き出しの中でひっそりと眠っている
この前、最近このカフェによくいらっしゃるお客様、Yuiさんとその妹のSakiさんから落とし物の問い合わせがそうなのだろうか、しかし、あれ以来、姿は見えない
もし、この次にいらっしゃったら、その話しをするのだろうか、いや、こちらからするべきなのか
「オーナー、オーナー?どうかしたんですか?何か考え事ですか?」
あの時、Nanaは不在だった、その日の事は話していない
日々の忙しさを理由に聞きたいことを仕舞い込んで、気付かないふりをしている
「コーヒー入ったわよ、お疲れ様でしたね」
「あ、ありがとうございます、もう、片付けおわりますから」
「ねぇ、Nana、この前、Yuiさん、Sakiさん姉妹がいらした時の事なんだけど」
「あぁ、Toyoさんの所に、お洋服を見に行った日の事ですよね、私がコーヒーを持って行った時に二人で何か見ながら小さな声で話していたんですよ」
「そうなの?何かって?」
「それが、何かよくわからないんですけど、文字みたいなのが書いてある古い手紙?か、巻物か、そんな感じの」
「そうなの、何でしょうねぇ」
「ん~、何語かな、一瞬、アラビア文字の様にも見えたんですけどね」
「そう、まぁ、あまりお客様の事を詮索するのは良くないわね」
「で、オーナーの話しは何だったんですか」
「帰り際に忘れ物の問い合わせがあったのよ」
「ん?忘れ物ですか?」
「どんなものか詳しく聞こうとしたんだけど、言いかけて、なぜか、すぐに慌てて帰ってしまったの」
「なんか、変ですね」
「ただ、鍵の様な物って言いかけて」
しばらくの沈黙が流れて、壁時計が時刻を告げている
「あの忘れ物の事でしょうか」
「そうかしら?っと思ってね、でも、よく考えてみたら、Yuiさんが来始めたのは最近よね?」
「そうですね」
「それとも、気が付かなかっただけで、もっと以前にいらっしゃっていたのかしら」
「ん~、静かな方だからそうかもしれませんが、私は憶えていないです」
最後のひと口を飲み干して席を立った
「外のライト落として来ますね、あっ!立て看板も入れるの忘れてました」
窓にライトが映って、駐車場に入ってくる一台の車が見える
ライトが消えた暗闇に浮かぶシルエット、おおよそ誰かは見当がつく
ドアベルが鳴り、立て看板を軽々と持って入って来たのはShintaroさん
追いかけるようにNanaが入って来て「あ、看板、こっちに置いて下さい」
「あらまあ、すみませんね、コーヒー飲んで行かれますか」
「いえ、大丈夫です、彼女を迎えに来ただけなのでおかまいなく」
「いつも、送っていただいてすみませんね、お忙しいでしょうに、私が送りますから」
「最近はちょっと落ち着いて来たので大丈夫です」
「コーヒーお持ち帰りになさいますか?」なぜか敬語のNana、動揺しているのか落ち着きが無い
「私も一度、ちゃんとオーナーにお話しをしておかなければと思っていたので、少しお時間ありますか」
「ええ、もちろん、いいですよ、お掛け下さい」
帰り支度を整えてカウンターに戻ってきたNanaが、いつものバッグの中から出してカウンターの上に置いたのは、あの時の鍵がついたチェーンホルダーでした
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