気が付いていないだけ
昨夜から降っていた雨は朝にはすっきりと上がって眩しい陽が雲の切れ目に輝いている
このところ、早い時間から席が空くことなく忙しいカフェ
Nanaは仕事前の時間も入って、慌ただしく仕事に行って、また戻って来るという日々だが、嫌な顔すること無く頑張ってくれている
今日も常連のお客様、KonさんがカウンターでNanaの来るのを待っている
「最近、お客さんがいっぱいだねぇ」
「お陰様ですね」
「Nanaちゃんも来てくれたしオーナーも助かるね」
「でも、少しはお休みもしないとね、誰かもう一人くらい来てもらった方がいいかしら」
ドアベルが鳴り、Nanaと一人の青年が入って来た
「お帰りなさい、お疲れ様ね」
「同じスポーツジムの友達に会ったので連れてきましたよ」
「どうも、コーヒー大好きなんでお邪魔しました」
「よくいらして下さったわね、何かコーヒーのお好みはあるかしら」
「これぞコーヒー、って感じのを飲んでみたいです」
「Kon爺さん、お待たせ~」
にっこり、嬉しそうに今日のあれこれを話し出したKonさんに少し驚いて、その青年は上着を脱いで、カウンターに腰かけた
「ボクサーさん、すっごいかっこいいでしょう?」
「え?ボクサーなんですか?」
「いえいえ、違います、全然関係ない仕事してます」
Nanaが勝手にそう呼んでいるだけだったが、確かに余分な物は何もないくらい引き締まった細身でボクサーっぽい
商社に勤めるボクサーさん、かなりのイケメンだが、素朴な青年であまり女性には縁がないそうだ
「絶対、モテモテだと思うよ~ちょっと鈍いからさぁ、気が付いていないだけじゃないの?」
照れくさそうに笑っているが、Nanaが気が付いていないだけだと思った
「どうかしら、お口に合うと良いのですが」
甘く深い香りにうっとりする様な表情の後、ひと口
「いや~美味しいです、コーヒーってこんなに香りも良くて、コクがあるんですね」
「いつもは自分で淹れているんだよね?オーナーのコーヒーは全然違うでしょ?」
「これから、毎日飲みに来ます」
「毎日来たら、忙しくなるじゃん、時々でいいよ」
なんとも、男同士の様に肩をポンポン叩いてサバサバと話しているNanaに少しあきれてしまう
「あらあら、いつでも来て下さいな」
明るい会話、楽しい時間が過ぎるのは早く、間もなくカフェは夕闇の忙しさに追われて行くのでした
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