爽やかな笑顔は扉の向こうへ消えて行った
春の足音がかすかに聞こえてきそうなこの季節、新旧の入れ替わりや別れとスタートが混在している
先週からオーナーKeiのブレーンの一人でもあり、カフェのお得意様、Miyuさんが頻繁に打ち合わせに来ている
新メニュー、関連グッズの件が中心だが、ある地域の情報誌で取り上げられたMiyuさんとオーナーKeiのコラボ、ヘルシーで美味しいメニューが静かな人気を呼んでいてお客様からの問い合わせも増えている
けたたましくドアベルが鳴り、「遅くなってすみません、渋滞に巻き込まれてしまって」
そう言って、慌ただしく席に座り、近くにあったコップの水を飲みほした彼、Shintaroさんが大きく息を吐く
「この先の大きな通りはいつも混んでるわよね、まぁ、そんなに慌てなくても良かったのよ」
ShintaroさんはMiyuさんの取引先の広告代理店に勤めていて、かつ、Nanaの取引先でも繋がりがある、よく知られたエリート広告マン
「あぁ、Nanaちゃん、ありがとう」そう言って美味しそうにコーヒーをひと口
ほ~っと肩の力が抜けてゆく深い味わいにひと息ついて、早速、ビジネスの話しに入って行った
Nanaは、よく常連さんからも”ちゃん”付けで名前を呼ばれるが、明らかに反応が違う
普段はメニューにあまり興味のないNanaが、積極的にお手伝いをしている感があるのはそういう事だったのか
知性に溢れ、爽やかで、それでいて、行動力のあるスマートな彼はきっと、誰からも好感を持たれるに違いない
が、しかし、反応は明らかに違うが、Nanaのそれは皆とはたぶん、少し違う感じがした
「じゃ、ここまでのところ、また来週、一回見せてもらえるかな」
「それまでにしっかり、詰めておきます」
彼もまた、大きなカバンを肩に掛け、この後も打ち合わせが一件あると言って席を立った
帰り際、何か言葉を交わし、爽やかな笑顔は扉の向こうへ消えて行った
後ろ姿のNanaの顔は見えない、ただ、いつもの様に少しぼ~っとしているのだろうか
「すみませ~ん、注文、いいですか」
お客様の声にハッとしてカウンターのオーダーシートとペンを取った
Miyuさんの顔をふと見ると「だよね?なに?あの感じ、違和感ありすぎよね」
ただ、頷き視線を宙に彷徨わせている
今、頭に浮かんだ言葉が霧で覆われていく、そんな記憶の操作に抵抗している内にこめかみがズキズキと痛み始めたのでした
コメント
コメント一覧 (2件)
カフェのゆっくりとした時間の流れにいつも癒やされてます。
ひろみさん、いらっしゃいませ
コメントありがとうございます。
美味しいコーヒーをどうぞ、ゆっくりしていって下さいね
オーナーKei