懐かしいいたずら
朝陽が差し込む部屋の風景は、昨夜見た時よりずっと素敵な配色だった
(ホント、綺麗な部屋だな、この広いベッド、クイーンサイズ?)
ベッドを整えてリビングへ行くと、昨夜の宴会の後は綺麗に片付いていた
(Shintaroさんに全部やらせてしまったんだ、悪い事しちゃった)
耳を澄ますと寝返りを打つShintaroさんの気配を感じて、ちょっと部屋を覗いてみたくなる
(仲直りしたんだし、ちょっとくらい覗いてみても大丈夫だよね?もし、目を覚ましたら声をかければいいし)
そうっとベッドルームのドアノブに手をかけて、少しだけ開けてみるとベッドに埋もれて眠っている姿が目に入る
(ちょっとだけ寝顔を見るつもりだったけど、もう少し近くで見てもいいよね?)
足音を忍ばせてベッドに近寄るとぐっすり眠ったShintaroさんの寝息が聞こえる
手を伸ばしてサラサラの髪をそっと指で分けると眉をなぞってみたくなる、アメリカにいた頃、よくいたずらした事を思い出したから
(目を覚ましちゃうかな、でもちょっとだけなら)
ベッドの端に腰かけて眉をなぞってみる、急に体が不安定になり手を伸ばしていた方の背中からベッドに横になってしまった
(うわっ、やばっ、そっか、ウォーターベッドだったの忘れてた)
後ろから身体がぐっと引き寄せられて一瞬、軽いめまいを感じた、振り向くと爽やか過ぎる笑顔があった
「起こさないでいくつもりだったんだろう?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「あはは、眉を触りたくなる癖、変わってないね」
「えへっ、ばれてた?」
「懐かしいいたずらを思い出したよ、また、眉になんか貼ったり、瞼に目を描かれるかと思ってヒヤッとした」
「てへへ、まだ覚えてるの?忘れてよ~」
「そんな事するのNanaくらいだろう?」
「Shintaroさんはもう少し寝ていてね、私、タクシーで行くから、昨日の片付けしてくれてありがとう」
「あれから、一人で飲んだから深酒したよ、Nanaのせいだな」
「ごめ~ん、この埋め合わせはちゃんとするから、近い内にまた飲もう?」
「うん、ちゃんと眠れたの?」
「うんうん、寝心地の良いベッドでぐっすり」
「そうか、あの部屋気に入ってくれた?」
「うん、すっごく素敵ね、理想的な部屋だよ、うちとは大違い」
「Nanaのために準備した部屋だったんだよ?それなのに、アメリカから帰って来て半年以上も連絡して来なくてさ」
「え~まじで?そんなの初めて聞いたよ?」
「言いたかったけど、言えなかった」
「そうだったんだ、ごめんね」
「だから、いつでも来ればいいよ」
「うん、そうする~~つーか、帰りたく無くなるじゃん?」
「身体、大丈夫なの?休みもらったら?」
「ううん、この前もRomiさんに急にお願いしちゃったから、それに、ベッドが良すぎてめっちゃ元気になった」
「そうか、送らなくていい?」
「大丈夫、じゃそろそろ行くね」
自然とハグをしてベッドルームを出るとShintaroさんのマンションを後にした
玄関が閉まる音がして、さっきまで溢れていたNanaの気配が消えて行く部屋で、Shintaroさんは呆然とカーテンの隙間から差し込む陽の光を見つめていた
(知ってしまったんだな、Nanaは自分の心を隠そうとする時、白い煙が纏う様に渦を巻く事に気付いているだろうか)
外に出ると既に暑いくらいの太陽が顔をだしている
(もう時間が無いから直接カフェへ行かないと間に合わないな、服、同じだけど、まっ、いっか)
タクシーの窓から街を眺めているNanaの顔は別人の様に白く、何かを確信しているようだった
「オーナー、おはようございます」
Nanaの顔を見ると瞳が大きく開いている
「おはよう、昨夜、何かあった?」
「オーナー、かなりパワーアップしてますね、隠し事は出来ないな」
「ふふ、そう?でも、それはあなたの方じゃないかしら?後で、詳しく聞かせてくれるかしら?」
「はい、それと、Miyuさんにどうしても確認したい事があるので、今晩、来てくれるかどうか聞いてみます」
「そう、わかったわ」
「あ~~モーニングコーヒーにピッタリのいい香りがします」
「ふふ、そうでしょう?さ、淹れたわよ、どうぞ」
「香りは華やかなのに、なんて優しい味わい!なんだか寄り添ってくれてる感じがします」
「ささ、お客様の車が入って来たわよ、オープンしましょう」
朝の澄んだ空気に香ばしい香りが広がって、カフェの一日が始まるのでした
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