波に浮いたり沈んだりする感じ
真っ暗な海の底に沈んでいるみたいにふわふわと体が浮いている
「ん?これは?どこなんだろう」
ドラマの回想シーンの様に途切れ途切れの画が映っている
「あれは誰?誰かと誰かが話しをしているの?もしかして、若様?後ろを向いている人は誰?顔が見えないけど」
途方もなく広がる空間をただ浮草の様にふらふらと歩いている感じがする
「今度は誰?弟君みたいだけど、その手に持っているのは鏡?どこへ持って行くの?そこってもしかしたら宮殿の奥の屋敷?誰かが待っている、誰に渡すの?あ~黒い煙に邪魔されてよく見えないけど、誰だろう?」
しばらくすると辺りが少しずつ明るくなっている
「あれ?今度は母上様?一緒にいる女の人は?Shintaroさんのお母上だ、知り合いだったの?母上様が連れている女の子は私?だよね?確か、Shintaroさんのお母上はご病気で早くに亡くなったはずよね、ほとんど覚えていない、あっ、あの少年、Nanami君?じゃないよね?Shintaroさんかぁ、よく似てる、爽やか過ぎる笑顔はこの頃からだったんだ」
波に浮いたり沈んだりする感じに似て、辺りがまた暗くなって、また、明るくなってを繰り返す
「今度は、馬に乗る練習に行った時の草原だ、あ~そうそう、いつもここで休憩をしたんだ、すぐ横に流れている川に水を汲みに行って滑って落ちた時だ、あはは、ずぶ濡れじゃん?そっか、髪にさしていた花が落ちて流れていってしまうのを取ろうとしたんだ、あの時もShintaroさんが助けてくれたんだな、思い出した」その時、誰かの手が、「ん?長い指が綺麗な手だけど骨がごつごつしてて、男の人っぽい手」
強くNanaの手を引っ張って、海の中から引き上げられる様に身体が上に浮かび上がっていくのを感じた
「Nana、Nana、大丈夫?大丈夫か?」
重い瞼を開けると心配そうに抱きかかえたShintaroさんの顔が見える
「私、どうしたんだろう?急に暗くなって何処かをさまよっていたみたい」
「はぁ、びっくりしたよ、急に倒れるから、酔って倒れるにはまだ早いだろう?」
「う~ん、そうだよね、疲れていたところに飲んだから?かな?でも、どうしてなんだろう、夢をみてたみたい」
「体調が良くないのかな、疲れているのに無理に誘ってごめんな、ちょっと横になっていた方がいい」
「ううん、私も飲みたかったから、じゃ、ちょっとソファで横にならせてもらおうかな」
「ソファじゃなくて、ベッドで寝たほうがいいんじゃないか?」
「いいよ、悪いし」
「俺のベッドが嫌だったら奥にもう一つベッドルームがあるから、そっちで横になって」
「嫌じゃないけど、Shintaroさんが寝るところがなくなっちゃうじゃん?」
「一緒に寝る?」
「え~」
「あはは、冗談だよ、奥の部屋使いなよ」
「ありがとう、まだ、少し頭がふらついてる、少し眠ったらよくなると思うから、そしたら帰るから」
「わかった、それは、目が覚めてから考えよう?あんまり調子悪かったら、明日の朝、オーナーに電話して」
「うん」
Shintaroさんに寄りかかりながら奥のもう一つのベッドルームの扉を開けるとちょっと驚く
「こんな部屋あったんだ、知らなかった」
Shintaroさんの使っているベッドルームとは全然雰囲気が違う、柔らかい暖色系で統一されている、オフホワイトのベッドリネン、ベッドカバーには薄くエンボスでエスニック柄の加工がある、少しオレンジがかったカーテン、アクセントラグはベージュ、壁には幾何学模様のカラフルな絵が飾ってある
ベッドに横になると少し奥まった所にスペースが見えた、通路みたいな感じの左がウォーキングクローゼット、右にデスクがあって大きな画面のパソコンが置いてある
「素敵な部屋だね、このベッドルームだけで、私の家の全部より広いんじゃない?てか?誰か女の人と住んでたの?って感じ」
「あはは、まさか、この部屋に入ったのはNanaが初めてだよ、掃除の人以外で」
「この部屋でお仕事とかをするの?」
「いや、俺のベッドルームにそういうスペースが有るから、普段はここには入らないよ」
「使ってないの?もったいな~い」
「この部屋は」
すやすやと小さな寝息が聞こえて、窓から夜の月が静かに照らしている
「寝ちゃったか、アメリカから帰って来て連絡をして来たのは半年以上経ってからだっただろ?この部屋はNanaのために用意したのに、勝手に自分で部屋も、仕事も決めて、普通はすぐ連絡するだろう?ふっ、聞こえてないか」
ブランケットを掛けなおすと名残惜しそうにベッドを離れ、静かにドアを閉めた
「どの位眠っていたんだろう?ここは?あぁ、そっか、Shintaroさんの部屋に来て飲んでいたんだ、ちょっと喉が渇いたな、さっきはどうしちゃったんだろう、夢だったのか、遠い記憶の中にいた様な気がするけど、Shintaroさんだけの遠い記憶の中?に入り込んでいる?そんな感じだった、まさか、だとするとあの人はShintaroさんなの?でも、若様や弟君とは知り合いじゃないはずでしょう、どうして…」
再び、強い睡魔が襲って来て深い眠りに落ちて行く中で、明日の朝、カフェに行く時間の事を考えているのでした
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