93rd Episode 『残る虚しさ【An empty feeling】』

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月明かり、しかも満月の夜

物陰からこっそり様子を伺っていた人物がいた

「兄上、何やら面白そうなお話しじゃありませんか」

「これは、これは、若様の弟君ではありませんか」

「先ほどからお話しは聞かせて頂きましたが、どうやって手に入れたのですか」

「あ、いや、それは、そなたには関係なかろう」

「しかし、どうやって返したら良いものでしょう」

「こっそり戻すのは難しそうですね、拾ったとか言って家臣に渡したらどうでしょう」

「私に妙案がございます、どうでしょう、賊の奇襲を装って、盗まれた事にするのはどうでしょう?」

「おぉ、それは妙案ですね、しかし、賊は誰がやるのです?」

「まぁ、私にお任せ下さい、その方面に顔が利くものを知っております」

「若様、早く手放した方がよろしいですよ」

「そうですよ、王様に知られたりでもしたら大変な事になります」

「使えないものは持っていても仕方ないか」

「そうですよ、それに、王様だって使った事などないのでしょう?」

「失ったとしても問題はないのでは?」

友は口々に関わりを絶つ様、説得するので、しぶしぶ渡す事になった

「兄上、お任せ下さい、賊の仕業となれば、兄上に及ぶ事はありませんよ」

弟君は鏡を懐にしまうと去っていった

遊び人で、町のごろつきなどを取りまとめている頭と付き合いのある弟君は、度々、問題を起こしているのが気掛かりであったが、王様以外が使えないものであるのなら、さして大事になる事はないであろうと考えたのであった

(ふふっ、兄上も大胆な事をなさったものだ、これが兄上と一緒におばあ様から聞いた鏡か、この鏡は陽の光ではない、月明かり、しかも満月の夜なのだ、兄上はお忘れになったか、そして、今日は満月、試さない理由はないであろう?何て面白い事だ)

弟君は町の賭場へと消えて行った

その日の晩、宮殿の空が赤く染まり、立ち上る煙と、騒然とする現場を目の当たりにする事となる

以降、若様と友の間には一切、この話題について話すものはなかった

目覚めると空には大きな月が見降ろしている

「まさか、そんな事とはね、腹立たしい」

「あの若様と弟君は先の王様の系列ですわね、王子様ですわ」

「そうね、先の王様は側室を何人も迎えられていたから、庶子の王子様も結構いたわね」

「若様はあまり話しを聞いた事がありませんわ、でも、あの弟君の評判は色々と良くないものでしたわね」

「NanaはJinさんが若様だとわかっていたの?」

「いえ、ただ、どこかあの時の人と同じ匂いがしたんです、だから、確かめたかった」

「そう、それで、一緒に出掛けたら何かわかるかもしれないって思ったのね」

「なぜ、そこで言ってくれなかったの?危険な事はわかっていただろう?」

「ごめんなさい、確信が無かったし、それに」

「ねぇ、もう、そろそろ戻った方がいいんじゃない?」

「そうですわね、一旦、カフェへ戻りましょうか」

竜巻の様な渦の中で、月明かりが小さくなって行くのを虚ろに見ていたNanaは、さっき言いかけた言葉をのみこんでいった

「あ~だるいわ」

「体が重いですわね、今日はちょっと長かったからかしら」

「ねね、コーヒー淹れてくれない?だめ?」

「そうですわね、ちょっと気分を変えましょう、すぐ淹れますわね」

「ちょっとほろ苦いコーヒー、お願い」

何となくぼんやりしているNanaをShintaroさんが心配そうに見ている

「大丈夫?」

「うん、ちょっと疲れたけど、でも、大丈夫」

甘く深い香りが広がって、心地よい空間が戻って来るとうっとりしてひと口

「あ~美味しいわ、このコーヒー、ワインみたいじゃない」

「さ、Shintaroさん、Nanaもお飲みなさいな、どうぞ」

「これを飲んだら、今日は取り敢えず解散ってことにしよ、疲れたわ」

「そうですね、ゆっくり休んで下さい、Nanaは送って行きますから」

「そうね、Shintaroさん、お願いしますね」

帰りの車の中でもぼ~っとしているNana

何か引っかかるものを感じるShintaroさんの横を街の景色は流れていったのでした

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