91st Episode 『意味不明な言葉【It doesn’t make sense】』

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お互いを思いやる気持ちですわね

「Nana、戸締りしっかりお願いね」

オーナーKeiとNanaが店を閉める準備にバタバタと動いている

そんな中でもマイペースでコーヒーを味わうMiyuさん、貫禄のオーラが光っている

「冷めても美味しいわね」

「Shintaroさんもコーヒーお飲みになったかしら?」

慌てて、飲み干すコーヒーに少しむせているShintaroさんの背中をさするNana

「もぅ、むせちゃったじゃないですかぁ、オーナーが急かすからですよぉ、Shintaroさん、大丈夫?」

最近、得意になった掌を上に向けて首を傾げる、あのジェスチャーをするオーナーKei

「まぁ、昨日までの態度とはがらっと違うじゃないのさ、”Shintaroさん、大丈夫?”」

Miyuさんが冷やかす様に真似をする

「もぅ、真似しないで下さいよ」

爽やか過ぎる笑顔で「大丈夫だよ、さぁ、行こうか」

「”さぁ、行こうか”」Shintaroさんの真似をするMiyuさん

「もう、Miyuさん、いい加減にして下さいって」

「そんなに怒らなくてもいいじゃないの、ちょっとハイになってるんだからさ」

「じゃ、気を引き締めて、今日は見る物が沢山ありますわよ」

一番大きな手が開かれて、一つ、一つ、鍵が置かれて行く

Nanaがしっかりと両手でShintaroさんの握った手を包むとMiyuさん、オーナーKeiの順に重なり、一気にカフェの空気が風に変わる、そして、大きな渦の中へ沈んで行った

目覚めると、開かれた窓から、大きな月と照らされている古めかしい建物がぼんやり映る

Miyuさんの声が聞こえる

「目が覚めた?薬茶飲める?」

「はい」

「ナツメとハスの実、紅花や菊花の薬茶ですわよ、元気が出ますわ」

「いい香りです、ちょっとピリッとしますね」

「その成分が血流を良くしますのよ」

「また、両手でしっかり握っただろう?無理しなくていいのに」

「だって、全部を握っているShintaroさんの負担が一番大きいんだよ?少しでも減らさないと」

「ふふ、お互いを思いやる気持ちですわね」

「良かったわよ、そういう姿を見ると安心するわ、で、何があったの?あ、薬茶飲みながらでいいわよ」

「あの日、まだ訓練生だったNanaと私は護衛部隊の補佐として、王様の狩りの下見に出ていました

私とNanaを含め数人の訓練生は後片付けで遅くなり、戻った時にはすっかり日が暮れていました、武器庫へ納めに行く途中の蔵から火の手が上がっていて、部隊の人が交戦していました、何人かの訓練生は火消しをしていて、すれ違った仲間は奇襲にあったと叫び、援軍を呼びに行くと言って、とにかく辺りは騒然としていた」

Shintaroさんはお茶を飲み干し、息を吐き、続けた

「私達が参戦すると隊の先輩から救護に回れと指示され、何人かの怪我人を一先ず集めて応急処置をしました、重症者は私達の手には負えず、救護班を呼びに行く事になり、出ようとした矢先に敵賊に襲われ、止む無く応戦する中、急にNanaの顔に光が当たり、一瞬の隙をつかれたNanaは足を取られて転んでしまった、私は足を引きずるNanaを支えながら逃げようとして、何かが足に当たり踏んでしまった」

言葉が出なくなってしまったShintaroさんの代わりにNanaが続ける

「その時、援軍の兵や救護院からの救護班が駆け付け、敵賊は皆引き上げていったんですが、その人は何かを拾い上げ、立ち去る時に私に笑って言ったんです、”もはや、お前はただの道具となった”って」

さっきまで開いていたShintaroさんの手がぐっと握られて、気付いたNanaがそっと包む

「その時は混乱していたし、何を言ってるのかよく意味がわからなかった、その言葉の意味を知ったのはずっと後の事で」

遮るようにShintaroさんが言った

「私がその時、踏んだのは鏡だったんです、そして、後から調べて分かった事ですが、王族、もしくはそこを管理する人たちしか知らないはずなんですよね?違いますか王妃様」

静かに頷き、思い出すような仕草で一点を見つめる、静まり返った夜の中に虫の声が響いていた

「その事件、思い出したわ、ね?姉上様」

「あぁ、あの火事の晩、この子は高熱で一晩中看病をしていたから大変だった」

「その声に何となく聞き覚えがあったんですが、思い出せない、辿り着きそうになったところで霧がかかったように白くなって行くんです」

「王族に関係する事となると、この子達はまだ、会う機会があまりなかったはずだから、私達の記憶を辿った方が何かわかるかもよ」

「そうですわね、姉上様、Shintaroさん、そこから一緒に見てみましょう」

そして、また、薬茶を少し飲み、一人、また、一人と手を重ねて行くのでした

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