誰かを待っているのかもしれない
「忙しそうね」
オーナーKeiのブレーンの一人でもあり、カフェのお得意様、Miyuさん、ゆっくりコーヒーをかき混ぜてひと口
実は、あまりそんな事は気に留めていない事はわかっている
慌ただしいカフェのカウンターの一角だけ、透き通った綺麗なターコイズブルーに薄い黄緑色と点々としたピンクのドット、ベースはベージュという不思議なオーラがまるで、彼女をシールドするかの様に取り巻いている
食品会社を経営し、自ら企画やイベントも行う手腕の持ち主だが、そんな様子はおくびにも出さず、いつもまったりしている
NanaがそんなMiyuさんを逸材だと思うのは、意表を突く何気ないひと言、一瞬で負の魔法から解き放ってしまうのである
一見、興味がない様に見えるけれど、実は暖かい心の持ち主なのである、という事を本人以外はよく知っている
しばらくして、カフェも落ち着きを見せ始め「じゃ、そろそろ、打ち合わせしようか」「そうね、奥の席がいいかしら」
「じゃ、コーヒーをもう一杯いれるわ、Nana、奥のそちらの席に運んでね」
ガタンと席を立つ音がして、「うわっ」バッグからペットボトルが転がり、続いて何やらガサガサと散らばっている
「ここにも一人、異次元の入り口を持った人がいたのね」
Nanaがいかにも(ほらぁ、私だけじゃないでしょう?)という顔でちらちら、こちらを見ながら手伝っている
イベントの食品サンプル、材料、ノートパソコン、商品チェックのために買ったお菓子やデザート等々
Miyuさんのお気に入りブレンド、深いコクと切れの良い酸味を感じさせる良い香りが立ち込めて、何事も無かった様に静かになって行く
カップ棚に片付けながら横のカレンダーを見る「今月ももう終わりだな」
斜め後ろから見たその顔は、少し、口角が上がり、笑っている様に見えたが、カレンダーを見て思うのは何かを待っているという事だろう、それは誰かを待っているのかもしれない
Nanaは一瞬、ぼ~っとして、少し首を振ってカウンターを拭きながら、にわかに忙しい現実へと戻っていったのです
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