しまった、見られてしまった
夜はにわかに深まり、遠くに聞こえる通りの車の音も静かになって来る頃
「Nanaは車を置いてるからここに戻ってくると思うんですよ」
オーナーKeiとMiyuさんはまだ、カフェを離れられずにいた
「そうね、でも、ここだと休まらないんじゃない?」
「もう少しだけ、連絡を待ってみましょう?」
手掛かりを求めてテレビのニュース画面に顔を向ける、が、瞳はぼんやりと眺めている様にしか見えない
「空港へ向かう道は大渋滞だそうよ、Shintaro君、身動き取れずにいるんだろうね」
「そうですわね、反対に都心へ戻る道はだいぶ動き出しているようですわね」
その時、オーナーKeiの携帯から音楽が流れる、慌てて落としそうになりながら出ると
「Nana、大丈夫なの?今どこにいるの?」
Miyuさんがもぎ取る様に取り、スピーカーにする
「心配かけてすみません、ちょっとアクシデントに巻き込まれて、今、帰りの道中なんですけど、そこも大渋滞で、やっと車が動き出したところなんですよ」
「大丈夫なの?無事なの?テレビのニュースでやってるわ」
「空港で爆発があったみたいなんですが、事故なのか事件なのかわからないみたいで、私達が帰ろうとした矢先にゲートが閉まってしまい足止めされたんです、その間、車中で待たされていたんです、携帯も繋がらなくて連絡出来なくてすみません」
「そんな事はいいのよ、あなたが無事ならいいの、ほっとしたわ」
「Miyuさんも来てくれていたんですね、すみません」
ホッとしたオーナーKeiは椅子に崩れる様に腰かけて脱力している
「カフェに戻ってくるのよね?車あるし、ここで待ってるから」
「でも、やっと動き出したところなので、まだ、カフェまでは時間掛かると思いますから、お家に帰ってもらって大丈夫です」
「あなたの顔を見るまで帰られるわけないでしょう?オーナーなんか魂抜けてるわよ」
「そうですよね、本当にすみません」
Jinさんが何かNanaに話しかけている声が聞こえる
「あの、Jinさんも心配かけてすみませんって」
「Jinさんのせいじゃないですわよ、まさか、こんな事に巻き込まれるとは思っていないでしょう?Jinさんも大変でしたわね」
その時、Miyuさんが大きな声をあげた
「ちょっと、Shintaro君が空港へ向かっているのよ、ホッとして忘れてた、きっと大渋滞の中にいるわ」
「え?どうしてShintaroさんが?」
「当たり前でしょう?この事態に連絡しないはずないでしょう?私達4人は家族同然なのに」
ほんの少し、言葉が無くなりシーンとして
「あの、Shintaroさんには何て言ったんですか?」
「Jinさんと行ったとは話していないわよ、友達と飛行機見に行ったっていってある」
「そうですか、でも、どうしよう?反対車線の渋滞はかなりひどいです、ちょっとやそっとでは解消しなさそう」
「今、オーナーがShintaroさんの携帯を呼んでるわ、戻る様に言うけど繋がるかどうか」
Shintaroさんの携帯に連絡を取っているオーナーKeiが首を振る
「繋がらないわ、どうしましょう、Shintaroさん、一人でヤキモキしていたら気の毒ですわ」
そして、また、掛けなおしてみる
「しばらく連絡取ってみるから、Nanaは心配しないで、ちゃんとこちらへ帰っていらっしゃいね」
「はい、ありがとうございます、私も、電話してみます、ホントに心配かけてごめんなさい」
その頃、大渋滞の最中にいるShintaroさんも3人に連絡を取っていたが繋がらない
持て余す時間に、車中のテレビニュースやネットで情報を集めていた、その時、ふと何かに引き寄せられるように反対車線に目をやると、助手席で携帯を手にしているNanaの姿と運転席で心配そうにNanaに話しかけている男性の姿が入ってきた
スローモーションの様にゆっくりと近づいてくる、そして、すれ違う瞬間にゴールドとシルバーの強い閃光がぶつかり合って、目が合うとそれに気づいたNanaの驚く顔が見える
次の瞬間、『しまった、見られてしまった』その表情のNanaが目をそらしたのがわかった
呆然としているShintaroさんの携帯が鳴る
「あっ、やっとかかった、Shintaroさん、ごめんなさい、これには事情があって、あの、もしもし、もしもし?」
無言のまま切れてしまった、その後、何度掛けてもShintaroさんは電話に出る事は無かった
カフェに着いたNanaとJinさんはオーナーKeiとMiyuさんに迎えられ、一頻りアクシデントのごたごたに巻き込まれたいきさつを話して、Jinさんは帰っていった
「どうしよう、Miyuさん、オーナー、私、見られてしまった、Shintaroさんに」
「え?どういう事?」
「渋滞中、Shintaroさんの車とすれ違った」
「ええ?そんな、偶然にもそんな事って」
「その直後にShintaroさんの携帯に繋がったんだけど、無言で切られてしまったんです、それからは出てくれない」
「電話、繋がったの?こちらからは何度掛けても繋がらないのに、ねぇ?Miyuさん?」
「そうね、もう一度、今からかけてみるわ、Nanaが戻った報告しないといけないしね」
そう言って携帯を手に取ると音楽が鳴った
「あっ、Shintaro君よ、あ、もしもし?お疲れ様ね、今、どこら辺なの?そう、あのね、今、Nanaがカフェに戻って来たから、心配しないでね、大丈夫だからね、うん、詳しい事は、また、今度話すわ、うん、うん、そうね、帰って来られそう?ああ、そうなの、わかったわ、じゃ、気を付けてね、はい、はい」
心配そうに見ているNana
「渋滞から外れて違う道で戻って来ているって、まだ、30分以上は掛かるそうよ、もう直接、家に帰るって言っていたわ」
「怒ってる感じでした?」暗く、沈んだ顔のNana
「いや、そんなの私達に出す人じゃないでしょう?普通よ、でも、カフェに戻らないってところを見るとねぇ、やっぱりあれじゃない?」
「まぁ、でも、気遣って、私達が待っていない様に、帰る様にそう言ったのかもしれませんわよ」
「うん、そういう気持ちもあると思う、そういう人だからね、Shintaro君は、まっ、あの子も明日が休みで良かったわ」
「ええ、Miyuさんもゆっくり休んでくださいな、もう遅いですからね」
「あなた達は明日もあるから、早く帰った方がいい、大変だけど頑張って」
そう言ってMiyuさんはオープンカーで颯爽と帰って行った、オーナーKeiとNanaも共にカフェを後にした
一人、運転して帰るNana、前をじっと見つめて瞬きをしない、その瞳からは不安と絶望が零れ落ちて行く
(どうしよう、あれから何度掛けても電話に出てくれない、もう、こっちへ帰って来てるのかな?どの辺りにいるんだろう?家にはまだ着いてないよね?行ってみようかな、家の前で待っていようか、でも怒っているだろうな、無視されたらどうしよう…でも、このままにする訳にも行かないし)
そんな事を考えながら、自分の家の前を通り過ぎて、その先にあるShintaroさんの家に車を走らせるNanaなのでした
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