魂が抜けた、そんな感じ
ドアベルが鳴り、眩し過ぎるブルーがかったシルバーの光がぶつかり合って共鳴している
「お先にどうぞ」
「あ、でも、どうぞ」
何やら声が聞こえるが、たぶん、どちらが先に入るかで譲り合っている様な会話だ
「何なの?これ、どういう事?すごい圧なんだけど」思わず手をかざす
「Miyuさん、大丈夫ですか?」
「じゃ、すみません、失礼します」
先に入って来たのは透き通ったブルーのオーラが美しい少年
「あら、Nanami君、お久しぶりです事」
「こんにちは」
「まぁ、Shintaroさん、いらっしゃい、今日はお休みですの?」
「はい、基本、うちは週休二日なんですけどね、土曜日は溜まった仕事を片付けているだけで」
「そうなのね、お疲れ様ですね」
「今日は蒸し暑いですね、喉が渇いたな」
「Shintaroさん、アイスカフェオーレにします?」
「いいですね、お願いします」
「Nanami君もアイスカフェオーレ飲んでみたらどうかしら?」
少し考えて「じゃ、お願いします」
「Nanami君もこちらのカウンターへお掛けなさいな」
「あ、でも、また、ちょっとレポート書きたいんで」
「そう、それなら、あなたの指定席ね」
少し段が高くなっているコーナーのカウンター席へ
「何冊も重そうだな、何の本を持ってきたの?」Shintaroさんが気さくに笑顔で話しかける
「Nanami君は物理学専攻の学生さんですよ、いつもお勉強熱心なのよね?」
「いえ、そうでもないです」
「今日はNanaはいないのよ、良かったわね、からかわれなくて」
「そうなんですか」ちょっと恥ずかしそうに笑って、また、難しい本を開いている
「Nana繋がりか、それでからかわれているの?あはは、可愛そうに、でも、お休みですか?あれ?仕事入ってましたっけ?」
「いえ、そうじゃないんですけどね、なんていうか、ちょっとね」オーナーKeiが答えに困っているとMiyuさんが助け舟を出す
「Shintaro君は何も聞いてないの?今日、Nanaはお友達と空港へ飛行機を見に行ってるわよ」
「そうなんですか、珍しいな、飛行機見に行く様な友達いたかな?」
まろやかで深い香りがヒラヒラと花びらの様に舞い上がって行く
「美味しいな、アイスカフェオーレも良いですね」
「さ、Nanami君もどうぞ、飲んでみて下さいな」
「甘くて飲みやすいです、美味しいです」
「良かったですわ、少しづつコーヒーの美味しさを知って行って下さいな」
微笑ましく、その様子を見ていたMiyuさんが、ハッと我に返った様な表情をする
オーナーKeiは、目で合図して頷く
ふと、Shintaroさんを見ると、初めて見る様な表情、遠くを見る様な、よくNanaがする、魂が抜けた、そんな感じの顔でNanami君を見ていた
Miyuさんが何か言いたげなのを横目に
「ねぇ、Shintaroさん、今日ね、また、Nanaは夜にはカフェに戻って来ますのよ」
「あ、そうなんですか」
「ええ、晩御飯を食べに、また、いらっしゃって下さいな、その頃には帰って来てると思いますわ」
「そうね、私もちょっと事務所で細かい仕事を片付けるわ、また、その頃に来るわよ」
「ええ、Miyuさんもそうして下さいな」
二つの青みを帯びたシルバーのオーラが共鳴し合い、カフェの雑踏へと紛れて行くのでした
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