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古代ローマの夕暮れに思いが馳せる
数週間過ぎても問い合わせの無い忘れ物はレジ下の引き出しでひっそりとその時を待っている
「そろそろ、暗くなって来ましたね、外のライトを点けますね」
お天気が良かった日の西の空は、まだ、光っている
奥の客席で笑い声が聞こえて、Nanaは少し、体をよじって伺っている
「そろそろ、ですかね」普通のカップの半分くらいの小さなカップにコーヒーを注いでお客様の元へ
オーナーKeiの心配りのひとつ、もう少しゆっくりしたい、もうちょっとコーヒーが飲みたかった、なんていうお客様の心の声が聞こえるみたい
「少し、落ち着いてきたところだし、仕入れたばかりの豆を挽いたの、どうかしら」
「ふふふ、さっきから、この良い香り、気になっていたんですよね」
「明日は、エスプレッソdayなんてどうかしら」
「古代ローマの夕暮れに思いが馳せる、そんな味わいです」
相変わらず、自信ありげによくわからない感想を言ってくれるNanaだけれど、あながち根拠のない自信とも思えないのは、豆の産地を言い当てているところ、只物ではない…
奥のお客様達が賑やかに扉へと向かい、Keiが世間話しにつかまっている
Nanaはカップを片付けにカウンターの中へ
そして、レジ下の引き出しをそっと開けて、人差し指で触れて、また静かに閉める
入れ替わりに、仕事帰りの常連さんが深い香りに引き寄せられるようにするすると入って来て、席がうまって行く
KeiはNanaが興味というよりも、そこにある事に安堵する様な表情で見つめた瞬間を見過ごす事が出来なかったのです

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