私がね、決めたのよ
「ねね、Shintaroさん、Miyuさんの鍵、オーナーの鍵とくっつけてみてよ」
頷くと、オーナーの鍵の少し緩んだ付け根の輪にMiyuさんの出した小さな鍵の先の穴に通してみる
その瞬間にShintaroさんの手に力が入り、ぐっと握って震える、眉間のしわが苦しさを物語っている
「どうしたの?Shintaro君、大丈夫?」
「うわっ、やっぱり、この鍵、最強だよ、思った以上に威力がありそうじゃない?」
「Nana、早く、一人だとかなりキツイ」
「わかった、さ、オーナー、Miyuさん手を貸して」
NanaがShintaroさんの握った手を開いてNanaの鍵、Shintaroさんの鍵を滑り込ませる、そして、Nanaの両手でしっかりと握るとNanaの意識が遠のいて行くのが表情でわかる
「早く手を置いて下さい!」
「わかったわ」
オーナーKeiがMiyuさんの手を取って自分の手と一緒に包むように握った
身体の力が抜けて意識が遠のくなか、全てが歪みねじれていくのがわかる
どのくらい時間が経ったのだろう、眠りから目覚めた様に少しずつ目を開けると辺りは薄暗く、夜なのか、松明があちこちに灯っている
誰かの話し声が聞こえてそちらを向くが、身体が言う事を聞かない
「あら、目が覚めたようね、どう?動ける?」Miyuさんの心配そうな顔が映る
「もう少し横になってお休みなさいな、ちょっとNanaに一番刺激が行ってしまったみたいなのよ、可愛そうに」
「皆さん、大丈夫そうですね、良かった」
「たぶん、Nanaが両手でしっかりと抑えたからじゃないかな、あの瞬間に、私はす~っと力が抜けて楽になったんです、ごめんな」
「私は大丈夫、こんなの平気」
「この子ったら…」言いかけてため息に変えるMiyuさん
「ここじゃ、なんだから、ちょっと中へ入りましょう」ShintaroさんがNanaを抱き上げて慣れたように屋敷の中へと入って行く
「あなた達、相当慣れてるの?ちょっとこんな格好で動きにくいったらありゃしない」
「すみませんね、こんな思いさせるつもりはなかったんですのよ、姉上様」
「あなたが妹だったとはね~そりゃ、他人とは思えない訳よ、しかも王妃様とはね~世が世なら….」
「まぁまぁ、そこら辺の話しはまた後でゆっくりとしますわ、姉上様」
「もう少し、眠った方がいい」
長い廊下を進んでいく、その声を最後まで聞く事無く、再び、眠りに落ちて行く
身体がふわっと軽くなって来て、薬茶を淹れるほろ苦い香りに目が覚める
「はぁ~王妃様の淹れてくれる薬茶は昔も今も最高な香りです」
「ふふ、復活した様ですね、もう大丈夫ですよ」
「あなた、カフェのオーナーは天職だったのねぇ」
「Nanaが眠っている間に、今までの話しは大まかに話しておいたからね、丁度良かったよ、Nanaには聞かれたくない話しがあったし」
「ええ~ずるい~私に聞かれたくない話しって何よ?」
「うそうそ、そんなの無いよ、まだ、これからMiyuさんの記憶を聞くところだから」
「もう…早く、聞きたいです」
「そうねぇ、何から話したらいいのかなぁ、大した事じゃない話しばかりかもしれないよ、あっ、そうそう、Shintaro君が聞かれたくない話しで思い出したけど、私がね、決めたのよ、あなた達の縁談」
「え?そうなんですか?」
「うん、大臣といつも話していたんだけど、あ、大臣って旦那様の事ね、娘だとね、この時代は政治の縁組に使われるでしょう?そうならない様にするにはどうしたら良いかってね、それで、Nanaを男の子の様に小さな時から武術、剣術、忍術全てを学ばせて、女の子のする事は何もさせなかった、それで、世間ではじゃじゃ馬娘?そうやって縁遠くしたのよ」
「そうでしたわね、いつもShintaroさんの後を追っかけて挑んでは敗れて、泣いて帰って来てたわ」
「最初は、Nanaとは兄弟の様だったから、どうかなとは思っていたんだけど、ある日ね、Nanaの裳着の祝いの時に、あ、今でいう女性の成人の祝いみたいなものね、その時に美しく正装した姿で儀式を行ったのよ、Shintaro君はNanaだと気が付かずにいたら、NanaがShintaro君を見つけて駆け寄ったの、覚えてる?」
「あっ、いや、その、はい….」
「その時のShintaro君ったら顔が真っ赤で、目がハートになっていたのよねぇ~それで、私はこれはいける!って思って決めたの」
照れくさそうに首を傾けて頭をかいているShintaroさん
「直ぐ、大臣に縁組の話しを護衛隊長に持ち掛けて進めてもらったのよ、Shintaro君は当時、豪商で有名な商家の娘さんとの縁談が来ていて、護衛隊長は困っていたの、金銭面の後ろ盾は商家がほとんどだった時代、癒着や汚職が当たり前の様にあって、真面目な護衛隊長はそういう繋がりを持ちたくなかったのね、だから、話しは直ぐに決まって急ピッチで進められたのよ」
行方の分からなかった鍵がまた新しい記憶を蘇らせ、ほっと温まる話しにひと息つくが、この続きは真相に深く繋がっていくのでした
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