全部持っている人なんているのかしら?
息苦しく、じっとり絡みついて来る蒸し暑い空気も夜になるとヒンヤリと感じる
「オーナー、私、昨夜はすみませんでした」
「いいのよ、何も言わなくても、大丈夫、わかっているから」
「でも、Miyuさんにも心配かけてしまったのにあんな事になって」
「ふふ、Miyuさんは全てお見通しよ、だから心配ないわ、でも、ちゃんと話しはしないとね」
「はい、ShintaroさんがMiyuさんに連絡をして今夜、話しをする事になったって聞きました」
「そう、ならいいわね」
「う~どんな顔して会ったらいいのかわからないですよ、下手な芝居がバレバレですよね」
「相当、バレバレだったわよ、っふふ」
「もぅ、オーナーまで、Shintaroさんにも言われましたよ」
「ちゃんと話しは出来たのかしら?」
「ん~そうですね、でも、結果、何度話しをしたところでどうにもならないというか、モヤモヤ感はどうしても消えないんですよね」
「そうね、もう少し時間が必要なだけじゃないかしら」
「頭ではわかっているんですよ、でもね、私、性格悪いのかな、イラっとしちゃう」小さなため息
「Shintaroさんの態度にって事?」
「結局、これもジェラシーって言うんですかね、Shintaroさんは何て言うか、全部持ってるじゃないですか、不公平っていうか、ずるいですよね」
「全部持ってる?」
「彼に無い物あります?無いでしょう?背も高くてカッコイイし、頭も良くて仕事は出来るし、持っている物もセンスも全部、それに性格も、先を見て冷静に行動出来るし、しっかり自分を持っていて、一時の感情ではぶれたりしない、私は全部その逆で何にも無いから」
「まぁ、そんな風に言うなんて驚きよ、Nanaらしくないわ」
「私らしいって何なんですかね?自分がよくわからない」
コーヒーの深いコクが辺りに香ると少し気持ちが静まる様な気がする
「さぁ、どうぞ、きっと今のあなたにぴったりよ」
「ん~いい香りですよ」ちょっと首を傾げてひと口
「美味しいです、甘さもコクも苦みも酸味もバランス良くて、なんだろう?何が無いのかわかんない」
「全部持っている人なんているのかしら?」
「う~ん」
「Nanaの言う様に、もし、完璧だとしても、Shintaroさんが一番求めている物がその中にあるのかしら?」
「そんなのわかんないです、Shintaroさんじゃないもの、だから、あっ…」
「ふふ、だから、Shintaroさんになりたいって言ったの?」
「そんな事言いましたっけ?」
顔が赤くなっている自分に気がついたNanaはちょっとすねた様に横をむくのでした
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