意地悪な気持ち
朝から降り続いている雨が上がって雲がちぎれてキラキラと光る、もうすぐ夕焼けも沈む頃
「雨は上がったみたいね」
「そうですね、このまま晴れるのかな」
「梅雨に入ったら案外晴れる日が続いたりするわ」
「今日はお客様も少ないですね」
「どうしてもお天気に左右されるところはあるわね」
「Nanaが来てからずっと忙しくなって、あまりこういう日は無くなって来たのよ」
「じゃ、私は招き猫ですね」
「そうよ、福を運んで来てくれたかしらね」
「にゃ~にゃ~」
「ふふ、おかしな子ね」
「子供の頃、よく、にゃにゃちゃんって言われたんです、その頃はちょっと恥ずかしかった」
「昨夜は大丈夫だった?ちょっと心配してたのよ」
「ん…それが、帰ったら駐車場にShintaroさんの車が停まっていて、私、びっくりして咄嗟にコンビニへそのままいったんです、結局、気付かれてて」
「まぁ、そうだったの、渋滞で遅くなりそうだって」
「ええ、あの後、すぐに渋滞が解消されて、そのまま家へ来たって言ってました」
「そう、それは気になるわよ、あのMiyuさんの電話だし、仕事の事でなければ、あなたに関する事だと思うでしょうね」
「はい、何があったの?って言われたんですけど、言えなくて」
「そうよね、何て言っていいのかわからないでしょう」
「でも、Shintaroさんはそれ以上は聞かなかった」
「ええ、そういう人よね、きっと察してしまったのね」
「明日、Miyuさんと話しをする日ね、Shintaroさんは何て言うかしら、Miyuさんには悪いけど、やっぱり先に話した方がいいのかもしれないと考えていたのよ」
「やっぱりそうですよね」
「もし、言い辛かったら私から話しをしましょうか?」
しばらく黙って考えているNanaは、本当に考えているのかわからない様な表情
「私、今、とても意地悪な気持ちなんです、いえ、やっぱりわからない」
「ええ、複雑な感情よね、仕方ないわ」
「いつ、気が付いたのか本当の所はよくわからない、気遣って言わなかったのかもしれない」
「そうね、私が見た瞬間はあなたが矢に打たれた時、でも、兵士に紛れて女性がいたわ、彼女は弓を持っていた」
「Shintaroさんが私を抱きかかえて逃げようとした時に後ろから切られて、一瞬だけど振り向いたって言ってましたよね、私は、その時、彼を切った人を見たという意味で言ってるのかと思っていたんです」
「普通はそう思うわ」
「Shintaroさんが日本に帰国して、少し遅れて私も帰国しました、でもその話しはずっと後から聞いたんです、今回ほどの怪我はしなかったけど、前にも同じ様に突き飛ばされて転んで、その時にこの話しを聞きました」
「前に見た事がある人だったと言っていたわね、女の人だったと」
「はい、でも、本当は見てないんです、ただ、ふわっと同じ香りがした、シャンプーの香りなのか、香水なのか、柔軟剤なのかわからないけど、本当は言うべきでは無かったと思います、結局、彼を責める様な事になってしまうから、Shintaroさんは私がまた狙われると思っているんです」
「記憶喪失のはずよね、でも、記憶が戻ったのかしら」
「わかりません、でも、Shintaroさんは知っているんだと思います」
深いため息を隠す様に壁時計が時刻を告げる
「ちょっとコーヒーを淹れましょうか、お客様もいないしひと息いれましょう」
甘く、深く、優しい香りが広がって心が落ち着くひと時が流れる
「優しい香りですね」そう言って目を閉じてひと口
「味がよくわからないです…」
「今のあなたには、きっとどんなコーヒーも味気なく感じるでしょうね」
まだ、真実を知るには時間が掛かりそうな気がしていた、が、果たしてその真実を知る必要があるのかとも思うのでした
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