内ポケットの中の異次元
(ガサガサ、ゴソゴソ) 「あれ~また、どっかいっちゃった、もう、面倒くさいなぁ」
Nanaが大きなバッグの中を覗き込み何かを探している
「あった、あった、もう、いつもどこ行ってるのよ」
くすっと思わず笑ってしまうけど、度々、この光景は目にしている
Nanaはちらりとこちらを見て、ちょっと怒った様に、「私のバッグ、異次元に繋がっているんです」
そう言って取り出してカウンターの上に何気なくポンと置きながら、何か言ってほしそうに首を傾ける
「そうね、一体、中はどんな世界なのかしら」「ほらぁ、こんなぐちゃぐちゃな世界ですよっ」
ペットボトルが横に倒れ、お昼に買ったサンドイッチの残ったパックや財布に、携帯に、ipad、その他にも色々と確かに雑然として何が入っているのかわからない状態だ
「この内ポケットが怪しい、きっとここが別世界の入り口だと思うんですよね」
カフェのお客様も帰宅を急ぐ時刻、Nanaは約束があるとかで慌てて出て行った
ふと、カウンターの上に何かが音を立てる(カチャ)「そう言えば、さっき…」
カウンターを出て、急いで手に取ったその時、ピリッと、静電気?そして扉へと走る
勢いよくドアベルを鳴らして扉が開いた瞬間、めまいを感じて入り口のプランターによろめく
「忘れ物しちゃった~~きゃっ、ごめんなさい、オーナー大丈夫ですか」
「大丈夫よ、なんともないわ」足を引きずるように椅子に腰かける
Nanaは自分の開けた扉にあたって倒れたと思っているようだけど、たぶん、それ以前にバランスが崩れるのを感じていた
「これでしょう?さあ、どうぞ」そう言って、手のひらを見て、「あっ、これ、この鍵、どこかで」
「もう、慌てて、鍵をカウンターに置いたまま忘れちゃって、すみません」
「ん?オーナー、歩けますか?私のせいでこんな事に…」
翌日、Nanaはこのカフェを手伝うと言って来てくれる様になり、スタッフとして働いている
足の痛みが消えてもあの瞬間の感覚が手のひらに残り、熱い…
あの日、つじつまの合わない記憶の中にある忘れ物が手の中にある事をまだ伝えられないでいたのです
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