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リンクされた記憶
窓の夕日が映えるこの時間、カフェのカウンターの向こうから豆を挽く音、お湯が沸く音、そしてアロマとも呼ばれる深く心地よい香りが漂う
普段なら気持ちが落ち着く安らぎの時なのに感じが違うのは何故かしら
Nanaが手振り身振りで今日の大変だった事を話している
「今日、取引先から急な変更であわてちゃって、忙しかったんです」「それからあちこち連絡してなんだかんだと~」「そう、それはお疲れ様ね」
昨夜、帰り支度間際に見つけた忘れ物が記憶の入り口で立ち止まる
どのお客様の忘れ物なのか、どこかで薄っすらと見覚えがある様な気がするのに、その足音は遠ざかる
「オーナー、聞いてる?」「えっ?あぁ、そうね、うん、聞いてるわよ」
「んー?どうかしました? オーナー、ちょっと変ですよ?何か他の事考えてるって感じで」
Nanaの瞳が心の向こう側を見ようと大きく開いて表情が一瞬止まり、まるで魂を浮遊させているかの様にぼ~っとしている、Nanaは時々、こんな表情をする
「何か当ててみましょうか、考えてること」
「そうね、でも、考えていたのではないのよ、ただ、思い出せないの、だから、ちょっとすっきりしなくって」
「そんな事ありますよね、で、なにが思い出せないんですか」
その時、ドアベルの音が鳴り、常連のお客様、Shoさんが降り始めた雨と共に駆け込んで来た
一瞬の街の雑踏が遠くに消えて、Shoさんお気に入りのKei’sブレンドの香りが広がる
あぁ、前にも同じような…
ふと、何かとリンクされた記憶に包まれて行きました
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