新しい豆を挽く
「今日は暑いね、もう夏みたいだよ」
「そうですね、暑くなって来ましたね」
毎日いらっしゃるお客様、Konさんがカウンターで珍しくアイスコーヒーを飲んでいる
「夏でもホットコーヒーがいいって言ってなかったっけ?」
「そうなんだけどね、この前、他のお客さんが飲んでいるのを見て、美味しそうに見えたんじゃよ」
「で、どう?美味しい?」
「おお、美味しいねぇ、夏はやっぱりアイスコーヒーだねぇ」
「でしょう?だから言ったじゃん?」
相変わらずの会話で思わず、くすっと笑ってしまう
毎日、カウンターで繰り広げられるNanaとKonさんのコントの様な会話にホッとする
カフェは忙しい日々が続いている、あまり考える時間が無いくらいな方が気楽にも思える
夜になると、ShintaroさんがNanaを迎えに来て、まるで違う世界にいる様な話しをする、少しづつそんな日々にも慣れて来ているのを感じる
ランチのお客様が引くと午後のお茶の時間、そして仕事帰りのお客様へとカフェの時間は過ぎて行く
日々、この繰り返しだが、その合間の少しの時間にNanaの気遣いを感じる
今は状況を把握し、3人の記憶を繋げて、共有する事が最優先、そしてその後はどうすれば良いのだろう
ぼんやりとそんな事を考えてしまう
「オーナー、夜眠れてます?少し、椅子に掛けて休憩して下さい、私がやりますから」
「大丈夫よ、少し、甘い物でも食べましょうか?」
「いいですね、おやつの時間ですか?やったー」
手を上げて子供の様に喜ぶNanaにちょっと呆れながらも癒される
ニコニコしながら食べるその姿を横目に、新しい豆を挽くとカフェの空気が変わり壁時計が鳴る
夕日の美しさが名残惜しい西の空はあっという間に宵闇に変わり、漆黒の夜空に星が輝き始めると一人、二人とお客様がお帰りになり、静けさが訪れる
カフェの一日はどこもこんなものだろうか
「オーナー?疲れました?お腹空きません?」
少し黙るとNanaが考えさせない様にと話しかけてくる
「今日のランチで美味しそうだなって思っていたんですよ、あのオムレツ」
「残りがあるわよ、温めましょうか?」
「いいですか?じゃ、私、温めますね」
「フランスパンと食べると美味しいわよ」
「ん~~~最高、美味しいです!!」
ちょっとふざけて美味しさを体で表現しようとしている、と、そこにドアベルが鳴り、Shintaroさん
「遅くなりました、なんか、賑やかですね、あれ、お夜食ですか?」
「超美味しいですよ!Shintaroさんも食べます?」
「美味しそうですね、頂いてもいいですか?」
「もちろんですよ、すぐ用意しますね」
「まずは、腹ごしらえと行きますか、あはは」
静まり返っていたカフェに笑い声が響く、そんなカフェの様子を窓越しに伺う謎の人影に気付いてはいない三人なのでした
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