涙の理由
「良かったです、少し落ち着かれた様で」
「あなた方に心配かけてしまうなんてね、頼りなくてごめんなさいね」
「そんな事言わないで下さいよ、オーナー、私達は嬉しいんです」
「そうね、やっとこうやって三人で共有出来る様になったんですものね」
「そうですね、何からお話ししましょうか」
「昨夜の続きからでいいわよ、そうね、あなた達がアメリカで出会った後ね」
「そうですね、それからは何度も二人で話しをしました、いろいろと不可解な事も試していく内にわかった事もあります、Nanaの鍵で手を重ねて見える事は、基本、Nanaの記憶に存在するNanaと私です」
Nanaが鍵を手に取り頷いた
「そして、その後、私が思い出した祖父の遺品から見つけた鍵で手をかざすと、今度は私の記憶の中の二人であるという事が何となくわかって来たのです」
「なるほど、そういう事なのね」
「そして、二つの鍵で見た事は二人と、そして、私達に関連のある周囲の人々を含めた、より広い範囲の事がわかりました」
「そうなんです、それで、この前、オーナーと一緒に見て、初めてわかった事もあるんです、どうしても繋がらなかった事がやっと繋がったって事ですね」
頷く二人
「だから、嬉しいんですよ、ずっと霧がかってモヤモヤとしていた事がすっきりしたんですから」
「ちょっと、聞きにくいんだけど」
「大丈夫、何でも聞いて下さい」
「あなた達は、その、そんな事態になる前はいいなずけだったわよね」
「はい、もちろん、それに気が付いてからはお互いに魅かれあったのは事実です」
「でもね、オーナー、ある時、二人でたまたま入ったアンティークショップのおばあさんが不思議な事を言ったんですよ」
「不思議な事?」
「そうなんです、この因縁はずっと不幸をもたらすって、だから今世では叶わないって」
「えぇ?そうなの?」
「私達に課せられた役割はこの謎を解き、現世で因縁を断ち切るという事の様です」
「そんな、何て事なのかしら」
「この件に関わる人が皆、その因縁に今でも付きまとわれているのなら、そのままにしてはおけない」
「二人で何度も話しをしました、そして、Nanaがこのカフェに引き寄せられる様に入ったあの日、すぐ、連絡をもらって驚いたんですよ、私は仕事で何度もここに来ていたのに気が付きませんでした」
「私、あの日、壁時計が鳴った瞬間、オーナーの姿に重なって見えたんです」
「何が見えたの?」
「私が矢に射たれて意識が遠のいて行く中で、衣に血が水玉模様の様に飛んで、そして、泣いている人の顔が」
「それが、私だったのね」
「そうです、その後、Shintaroさんが私を抱えて逃げようとした時、後ろから斬られてしまった、そこで私の記憶は終わっています」
「そうだね、Nanaと同じ記憶です、ただ、私は振り向いたその先にいた人物の顔を見ているので、ほんの一瞬ですけどね」
「私達は結局、最後までお守りする事が出来ませんでした」
オーナーの目から、大粒の涙がこぼれ落ちている
涙は中々止まらなかった
「今日はもう、このぐらいにして帰りましょう、オーナー?」
「そうですね、明日もありますから、そうしましょう」
「そうね、Shintaroさんの好きなブルーマウンテン、残っている分はお持ち帰りになるかしら?」
「はい、明日の朝、アイスコーヒーで頂きます」
「オーナー、大丈夫ですか?気をつけて帰って下さいね」
二人は静かに扉を閉めて帰って行った
二人の記憶はそこまでで終わっている、心が痛んで止まらない涙の理由、彼らの知らないその先に続きがあった事を…
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