34th Episode 『前世の記憶【Memory of the previous life】』

目次

ニューヨークの空港で

「オーナー、オーナー、大丈夫ですか?」

呼ぶ声が次第に大きく聞こえ、ぼんやりと視界が開けて行く

「大丈夫ですか?」

二人が心配そうに覗き込んでいるのがはっきりと見え、思わず辺りを見渡す

「大丈夫、ここはカフェです」

「オーナー、頭は痛くないですか?」

「ええ、大丈夫よ、喉がカラカラだわ」

「ちょっとお待ち下さいね、すぐ冷たい物お持ちします」

Nanaがアイスコーヒーに氷とミルクを少し入れて持って来てくれた

「あ~美味しい、生き返ったみたい」

物を言わずに一気に飲み干した

「余程、喉が渇いていたんですね、オーナーのそんな飲み方を見たのは初めてです」

「そうね、いつもは味を確かめる様に飲むのが習慣になっているのよね」

「Shintaroさんも飲みますか?」

「そうだね、アイスコーヒー貰おうかな」

「あなた達は大丈夫なの?何ともない?」

「はい、私達はもう、慣れているから大丈夫」

「そうなのね」

「はぁ~」

「そんな大きな溜息つかないでくださいよぉ、オーナー、急にこんな思いをさせてしまってごめんなさい」

「いいえ、そういう意味じゃないのよ、なんだか、すごく疲れてしまって」

「無理ないですよ、今日はもう、帰ってお休み下さい、また、日を改めてお話し致します」

「ねえ、あなた達はいつから知り合いなの?」

「それは、現世でという意味ですか?」

「もちろん、そうよ」

「ですよね、実は私達は随分前にアメリカで会いました」

「ああ、そっか、Nanaは帰国子女だったし、Shintaroさんはアメリカに留学していたんだったわね」

「ニューヨークの空港ですれ違ったんです」

「私は、実は、物心ついた頃から何となく二つの記憶がある事に気が付いていました、あ、でも、それがどういう意味かはその時点ではよくわからなくて、皆がそうなんだろうと思っていました」

「そうなのね」

「はい、でも高校で日本に帰って来てから、ちょっと変わったおかしな子みたいに言われるようになって、段々、自分はおかしいんじゃないかと思い始めて、誰にも言わない様にしていたんです、だから、あまり友達も出来なかったし、馴染めなくて、大学でまたアメリカへ戻りました」

「そう、大変だったのね」

「その時、ニューヨークの空港で、遠くから何か気になる光に包まれた人が歩いて来るのが見えたんです」

「でも、その人は私には気が付かず、だから私がすれ違う時にわざと、これを落としたんです」

そう言ってNanaの鍵を見せた

「私はずっとこの鍵を祖母から大切にする様にとだけ言われ、ネックレスにして首にかけていました、だから、咄嗟にくびから取って、落としたんです」

「それを私が拾おうと手を伸ばした時、同時にNanaの手と重なり…」

「そう、さっきの様な事になったわけね」

「はい、それで私達はお互いの関係、因縁みたいものを知ることになったんです」

「その時は二人とも、驚きと恐怖でしばらくはただ、ぼ~っとお互いを見つめていただけでしたが、少しづつ落ち着いて来て、色々な事を思い出したんです、私は以前、骨董が趣味だった祖父が残してくれた遺品の中に似た様な鍵があったのを思い出し、探しました、それが、私の持っているこの鍵です」

「そうなのね、これっていわゆる、前世の記憶って事なのかしら」

「まぁ、そういう事なんでしょうかねぇ」

「聞きたいことはまだまだ、沢山あるけれど、もう、こんな時間だわ、Shintaroさん、明日の夜も、寄って下さる?」

「もちろんです、Nanaを送りますから」

「今、現世で何が起こっているのか、起ころうとしているのかわからないけれど、とても不安なの」

「オーナー、あの後の事が見えたんですね」

「ええ、あなたは私の手を握っていたでしょう?だから…」

「そうですか、でも、心配しないで下さい、もう、同じ様な事にはなりませんから」

「そうね、そうよね、わかったわ」

「じゃ、オーナーも気をつけて、また明日」

二人は何度も振り返りながら扉の向こうに消えていった

あの後、見えた事が蘇る、悪い夢を見ているのだ、そう思いたい気持ちが、より一層夢ではないと想い知らされるのでした

cafe-kei's-squ
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

目次