夢で見たあの風景
Nanaがいつものバッグから出してカウンターの上に置いた鍵を見つめる
そして、もう一つ、Shintaroさんが握っていた手を開き、鍵を置く
一瞬、これからの展開が見えなくなった
Shintaroさんのお話しは大体の想像はついていたつもりだった、が、この空気の行方は…
色んな思いが波の様に押し寄せては引いていく内に、急に不安になる
Nanaがエントランスの扉を開けて外の様子を伺い、鍵をかけた
「あの、やっぱり、コーヒー淹れましょうか」
「ええ、そうね、あぁ、さっき、ちょっと試しに挽いた豆が残ってるの」
「いい香りしていましたね」
「でも、ちょっと濃厚な感じだから、Shintaroさんの好みではないかもしれませんけど」
「Shintaroさん、いいですか?」
「大丈夫です、頂きます」
「じゃ、オーナーは座っていて下さい、私やりますから」
Nanaの顔を見ると少し説明のつかない表情でこちらを見つめている
何となく、心の準備をしているかの様な空気感
コーヒーの甘く深い香りが包み、少しずつ心を落ち着かせていく
「どうぞ」
「ひと月程前、Nanaが帰りに誰かに後をつけられて追いかけられた事があったんです」
「ええぇ?そうなの?なぜ言ってくれなかったの」
「オーナー、ごめんなさい、まだ、言えない理由があったんです」
「それからは私が迎えに来ているので大丈夫なんですが、彼らの狙いはこの鍵なんです」
「鍵?彼らって?なぜ?意味がよくわからないんだけど」
「そうですよね、混乱するのも無理ないです」
「誰なんですか?彼らって」
「見当は付いているのですが、まだ、しばらくは知らぬふりを」
Nanaがレジ下の引き出しに眠っていた忘れ物の鍵を持って来た
「この鍵はチェーンがちぎれていますよね、ここにもう一つ鍵が付いているはずなんです」
「え?どうして?なぜ、それがわかるの?一体、何の話しをしているのか全然…」
Nanaがそっと、Keiの手を取り、鍵を乗せる、一つ、二つ、三つ、そして、Nanaの手を置いて、Shintaroさんがその上に手を乗せた
次の瞬間、目の前の景色が歪みめまいが襲う
カフェの壁時計が静かに時を告げて意識だけがどこかに吸い込まれて行くように遠のく
「あ、声が出ない、何なのこれ」
深く、深く落ちていく、眠りに落ちていく様な感覚
どこからか、なんの香りだろう?懐かしい匂い?覚えがある様な…
誰かの声が段々はっきりとしてきて目が覚めると、そこには夢で見たあの風景があったのです
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