オーナーのコーヒーは目覚まし時計
満開の桜がニュースを賑わせて、街はすっかり春の色に染まっている
「オーナーのコーヒーが飲みたいっていう気持ちが身体を動かせるんですよ」
オーナーのコーヒーは目覚まし時計、Nanaが毎朝口癖のように言っている
常連のお客様が声を掛け、楽しそうに会話をする様子は穏やかな日々を思わせる
ランチの嵐が過ぎると波も静かに引いて時間がゆっくり流れて行く様に感じる
見過ごしてしまいそうな、ぽつんと一人のお客様
不思議なほど、その存在を潜めるように静かにたたずむ、そのお客様は最近いらっしゃるようになったYuiさん、窓の外を眺めながらコーヒーを飲む姿は、誰かを待っている様にも見える
フリーで翻訳のお仕事をされているそうで、来る時間もまちまち、あまり長居もしない
ドアベルが鳴り、一人の女性がご来店、辺りを見回してYuiさんの席へ
「珍しいですよね、いつも一人なのに」
「あの女性のお客様、Kiko先生の生徒さんじゃないかしら、よく似てるわ」
「ん~、そうですかぁ?あんな感じの人いましたっけ?」
コーヒーを運び、戻って来たNanaが不思議そうな顔で首を傾げている
何か言いたそうなNana、今日のRomiさんへのデリバリーを頼むとくるりとステップは軽い
「もうすぐ、お洋服が出来上がるんですよ、嬉しいな」
「そうね、休憩がてら、ゆっくりお洋服見ていらっしゃいな」
手芸用品店は元々、Romiさんのお母様のToyoさんがオーダーメイドで洋服を作っていた洋品店で、今でも、洋裁教室、和裁教室も店内の一角で行っている
その教室のドールが着ていたワンピースのデザインが気に入り、好きな生地を選んで同じ形のものを作ってもらっている
「Toyoさん、すごいんですよ、何でも作れちゃうんですって」
「ささ、準備出来たわよ、慌てずにね」
程なく、Yuiさんと後から来た女性が席を立つ
「お姉ちゃん、聞いて見なよ」
「あら、妹さんでしたの?」
「はい、妹のSakiです」
「ええ、あの、何か、落とし物ありませんでしたか?」
「お忘れ物ですか?どんな物でしょう?」
「あの、何ていうか、あの、鍵につけるチェーンの様なキーホルダーみたいな」
「え?」
その時、Sakiさんの携帯が鳴り、外へ出て行った
「あ、いえ、いいです、何でもないんです、じゃ、また」
けたたましく鳴るドアベルのせいなのか、心臓の鼓動が耳鳴りの様に大きくなって行く
少し、めまいを感じて、椅子に腰かけているとNanaが帰って来た
「オーナー、どうしたんですか?顔色が悪いですよ、大丈夫ですか?」
「ちょっと疲れたのかしら、大丈夫よ」
「しばらく、休んでいて下さい、私がやりますから」
後片付けがまだ残っていたカップを洗っているNanaを見つめながら、少しづつ落ち着きを取り戻したのでした
コメント
コメント一覧 (2件)
おいしいコーヒー御馳走様です
いつもドキドキ、わくわくしながら見ています
これからどうなるのか楽しみです
マーコさん、いらっしゃいませ
ご来店ありがとうございます
ストーリーの行方、目が離せませんね
どうぞ、ゆっくりコーヒータイムをお楽しみ下さい
オーナーKei