目の前に姿はあるけれど、手が届かない
色とりどりの美しい花がカフェのお客様を迎えるエントランス
この花壇をいつも綺麗に保ってくれているのは斜め向かいにある花屋のKatsuさん
カフェの常連のお客様でもあるし、オーナーの遠い親戚にあたるそうだ
カフェを訪れるお客様も足を止めて美しい花々に見とれているひと時は、コーヒーに癒される表情と良く似ている
Nanaがせっせとお水をあげてお世話の手伝いをしているのは、まるで夏休みの研究で朝顔を育てる様な感覚で楽しんでいる
「お疲れ様ですね、さぁ、コーヒーでひと休みしてくださいな」
「あぁ、そうだね、一杯いただこうか」
今日は陽ざしが暖かく、街ではコートを脱いで、薄着で歩いている人を見かける
カフェの窓からふんわりとした暖かい風がコーヒーの甘く深い香りを包んであちこちへ届けているのか、お客様がドアベルを鳴らす
忙しくなって来たカフェの様子を外から伺い、手で合図して、Katsuさんは帰って行った
穏やかで、心優しいKatsuさんはいつも控えめに見守っているが、オーナーとカフェを支える心強いブレーンの一人でもある
Katsuさんはとってもお金持ちのおじさんなのだが、常に質素で表に出すことはない
ひと頻りお客様で賑わっていたカフェも少し落ち着いて食器の片付けに追われていたNanaもひと休みのコーヒータイム、とその前に3軒先の手芸用品店へカフェのデリバリー
オーナーの友人のRomiさんはこのお店で働いている
「毎日運んでもらって悪いわね、ありがとうね」
「外に出ると気持ち良いので気分転換になって全然嬉しいです」
「そう?それなら良いのだけど、その内にね、何か、可愛いお洋服でも作るわね」
ニコニコしてスキップする様に帰って来る様子に思わず笑ってしまうが、ある意味羨ましく思う
「今日のブレンドよ、どうかしら」
「美しいエメラルドグリーンの海に囲まれた島をカラフルな鳥が飛びまわっている、そんな感じです」
まだ、何かいいたそうなNanaを促すように見つめると
「でも、ちょっと複雑な気持ちです、目の前に姿はあるけれど、手が届かないみたいな」
やはり、只物ではないなと思う
コーヒーの魔法がそうさせるのか、はたまた、歴史に詳しいのか、後者とは考えにくいがまるで過去を見てきたかのような描写に鳥肌が立つ
「そうね、深くて、言葉に言い表すのはちょっと簡単じゃないわね」
なんとなく納得した様な静けさが漂う中、ゆっくりと今日のブレンドを味わい、癒される時間が夕日の傾く時刻へと流れて、次第に忙しさにかき消されて行くのでした
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