複雑な気持ちだった
デリバリーから戻ったNanaが突っ立っている
「あら、お帰り、早かったわね」
「話しすり替えないで下さいよ、今のSakiさんの話しってなんですか?」
「別にすり替えてないわよ、あなたに隠していたという訳ではないし」
「そうですわ、あの一件で急にバタバタしたからですわ、すっかり忘れちゃっていたんですのよ」
「ふーん、そうなんですね」
「Shintaroさんとお姉さんは大学の先輩、後輩でしょう?その頃のSakiさんは高校生だった」
「Shintaro君のバイト先のお店で、トラブルに巻き込まれたSakiさんをShintaro君が助けた事がきっかけ」
「バイト先のお店?う~ん、家庭教師のバイトをしてたのは聞いてたけど」
「それから何度もそのお店に通ったそうよ、Shintaroさんに会うためにね」
「そうだったんだ」
「最初は助けてもらったお礼を言うために行ったみたいだけど、何度か会う内に挨拶を交わす様になって、Sakiさんは本気で好きになってしまった」
「高校生の頃って、そんな事があったら好きになっちゃうよねぇ」
「そうですわね、しかも、あの爽やかなShintaroさんですもの」
「でも、暫くしてお店に行ってもShintaroさんには会えなかった」
「夏休みの間だけのバイトだったんですわね」
「Sakiさんも大学生になり、お姉さんの大学祭に行った時に、お姉さんと一緒にいるShintaroさんを見つけた、そりゃ、このシチュエーションで再会したら、運命の人だって思っちゃうよね」
「ずっと心のどこかで想っていて、忘れられなかったんですね」
「Sakiさんとお姉さんはとても仲良しで、綺麗で皆から好かれていたお姉さんが自慢だったのね、お姉さんがShintaroさんの事を好きだと知って、自分の気持ちを言えなくなってしまった」
「そうですわね、同じ大学でいつも自由に会えるお姉さんと自分を比べた時、正直、勝ち目はないと思ったって言っていたわ、それに、ShintaroさんはSakiさんの事を覚えていなかったそうよ、本当はそれが一番悲しかったんじゃないかしら」
「大好きなお姉さんには幸せになって欲しかった、二人が結婚したら、ある意味、ずっとそばに居られるって思ったSakiさんは、何も言わず、心の奥にしまって諦める事が出来た」
「お姉さんの恋人、旦那さんってなっても、好きだからずっとそばに居られるって、すごいな」
「うん、辛いでしょうけどね」
「だから、Sakiさんのお父さんの会社に入って、将来を期待されていた二人が、あんなごたごたになってもShintaroさんを引き留めたかったんですわね」
「社会人になって会社に入ったShintaroさんには彼女がいて、お姉さんの事は後輩として可愛がっていたという事実を知ったのは、ずっと後からだったそうよ」
「お姉さんが記憶喪失になってしまい、別の人とお付き合いすると、正直、複雑な気持ちだったって言ってらしたわ、悲しい気持ちとその反面、神様が自分にチャンスをくれたのかもしれないとも思ったってね」
「そうよね、お姉さんのために一度は諦めたんだもんね」
「そんな事があったんですね、私は誰かの幸せのためにって考えられるかな」
「その直後、あの空港の爆発事件でJinさんとNanaが巻き込まれてしまい、ころっと忘れていたんですのよ」
「Sakiさんは、Nanaに直接会って謝りたいとも言っていたわよ」
「謝るだなんて、もう、過ぎた事だし、いいのに」
ひと通り話し終えたMiyuさんとオーナーKeiはコーヒーに手を伸ばす
「もう静かだけど、終わりの時間過ぎてるんじゃないの?」
「あらまぁ、ホントですわ、もうそんな時間ですのね」
何かを考え込んでいるのか、ぼんやりしていたNana、慌てて外のライトを消しに行った
「ねぇ、この話しってShintaro君にしないといけないよねぇ?」
「まぁ、そうですわねぇ、う~ん、どうなんでしょうか、でも、私達がしなかったら、きっとNanaはShintaro君には言わないんじゃないかしら」
「う~~ん、なんかちょっと嫌な予感がするわ、Nanaが何を考えているのかわかんないから」
黙って頷くオーナーKei、小さな溜息もひとつ、窓の外には駐車場に入って来た車のライトが見える
「Shintaroさんがお迎えにいらしたみたいですわ」
後ろを振り向いてライトを確認するMiyuさん「取り敢えず、この件は明日また相談しよ?」
色々な事があった二人には、もうしばらくの間、静かな時間が必要だと思うMiyuさんとオーナーKeiなのでした
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