109th Episode 『本気のスペシャルティ【Soldier】』

賑やかなひと時が流れているカフェの午後、カフェの常連のお客様でもあり、カフェケイズを支えるメンバーでもある人々が集う奥のホール席は、いつも企画の打ち合わせに使われている

忙しく国内外を飛び回っているデパートの敏腕バイヤーHaruさんは、いろんなアンテナを持っている人

「Haruさん、ちょっと久しぶり過ぎじゃない？」

「ふふ、ご無沙汰しております、Miyuさん、元気でした？」

食品会社を経営するMiyuさんは、オープンカーで颯爽と行くカッコイイ女性、一見、クールに見えるが実は懐の深い暖かい人

「見た通り元気よ、何？どこ行ってたの」

「ん、まぁ、あちこちと忙しくね」

「Haruさんはいつもお忙しいけど、今回はちょっと長かったですわね」

「うん、そうそう、オーナーに頼まれていたの、これでしょう？」

カフェケイズのオーナーKei、美しく、心暖かい人柄に自然と人が集まって来る、癒しの魔法を持つ人

「まぁ、覚えていて下すったんですね、嬉しいですわ、ありがとうございます」

「オーナーのお願いだからね、忘れないよ」

「これね、美味しいんですの、Miyuさんもご存じでしょう？」

「そりゃ、ソルジャーのコーヒーと言えば有名だからね、知ってるわよ」

「早速、頂きましょうね、少しお待ち下さいな」

ドアベルが鳴り、ShintaroさんとRenさんがご来店、二人ともスラっと背の高いイケメンのエリート広告マン

「皆さん、お揃いですね、お待たせしてしまったかな」

相変わらず爽やか過ぎる笑顔のShintaroさんが席に着く

「あぁ、Shintaro君、いいのよ、私達はちょっと早めに来たんだから」

深く香ばしい香りが広がると、お喋りな口が静かになり、溜息に変わる

「豆を挽くときの香りはまた、格別ね」

Renさんはカウンターで何やらオーナーと話し込んでいる

「まぁ、Ren君のオーナー狙いはまだ、健在なのね？」

「あっはは、オーナー狙いですか？面白い事言いますね、Miyuさん」

「へ？そうなの？しばらく来ない内にそんな事になってたの？」

「ふっ、ま、ほっときましょ」

「皆さん、お待たせしましたわね、さぁ、どうぞ」

「何とも言えないいい香りじゃない？」

「ホント、この瞬間にコーヒータイムの幕が開くって感じ？」

「何、どうしたのよ、Haruさん、珍しく難しい事言ってるじゃない？Nanaみたいよ」

「くっ、あっはははは」Shintaroさんが堪えきれずに笑いだす

目を閉じてゆっくり香りを楽しんでひと口

「あ～美味しい、このほろ苦さ、ぐっと来るわね」

「うん、好きな感じだわ」

「そうですね、疲れが取れる感じがしますよ、美味しいです」

ドアベルが鳴り、大きなバッグを抱えたNanaが中抜けの仕事から帰ってきた

「オーナー、只今帰りました、てか、騒がしいと思ったら今日は打ち合わせだったんですね」

フリーで設計のお仕事をしているこのカフェのスタッフで、ちょっと不思議な力を持つNana

「これこれ、Nana、騒がしいだなんて」

両手を開いて手のひらを上に向けて首をすくめるジェスチャーのNana、アメリカ帰りなのでこんな感じ、最近、オーナーKeiにも伝染している

「あ、Nana、お帰り、お疲れさん」爽やかな笑顔でNanaに話しかけるShintaroさん

「え？何？ちょっと、Nanaって？ちゃん付いてないけど？二人仲良しすぎじゃない？どういう事？Miyuさん」

「まぁ、Haruさんにしたらウラシマタロウ状態か、いいのよ、こっちもほっときましょ」

「ささ、Nanaの分もありますわよ、先ずは、コーヒーお飲みなさいな」

「え？このパッケージって、前にオーナーが話していたのですよね？」

「ええ、Haruさんのお陰よ」

「Nanaちゃんも飲んでごらんよ」得意そうなHaruさん

「美味しいです！何とも言えない深い味わいです、まるで、遠い世界から戻って来た戦士が握り締めていた、その手の平には戦士が守り続けた一握りのコーヒー豆、そんなイメージです」

「相変わらず訳の分からない感想ですこと、でも、soldierだけに？わからなくもないですわね」

「もう～オーナー、酷いですよぉ、私達だって同じじゃないですか、見えない敵と戦う戦士、気持ちは同じです」

一瞬、し～んとなり、Haruさんがキョトンとしている

「あ～しまった、Renさんは概ね見えてるだろうけど、Haruさんはまだだった」

ShintaroさんとRenさんが大爆笑の中、呆れ顔のMiyuさん、例の手のひらを上に向けたジェスチャーのオーナーKei

「何？何？ねぇ、教えてよ～意味わかんないんだから」

あまりに大胆なNanaの発言に、さらに騒がしくなるカフェのホール席なのでした