でもそれは違うんだけどな
流れる街並みを照らす月の灯りがオレンジ色に光る
「寒い?ちょっと温度下げようか」
「うん、もう夜は秋の匂いがするね」
「そうだね、シート倒してゆっくりしてて、静かに運転する様には気を付けるけど」
「Shintaroさんの運転はいつも静かだよ、それにちょっと頭が重いかなってくらいだから」
「お腹空いてない?」
「あまり食欲はないの、それに、オーナーが持たせてくれたのがあるから、Shintaroさんは?お腹空いてるでしょう?」
「そうだな、少しね、オーナーは何を持たせてくれたのかな、足りなければ何か買って来るよ」
「うん」
見慣れた広い部屋はいつもの様にいい匂いがして、帰ると既に温度も適温に調整されている
「本当に素敵な部屋だね」
「良かったらこれに着替えなよ、大きいだろうけど」
「ありがとう」部屋を出て行くShintaroさん
「うわっ、ほんと、Tシャツの中で泳いじゃってる」ソファに座わると、身体が深く沈んで心地良い、遠くで聞こえるシャワーの音が眠気を誘う
「大きすぎる?いいかな?てか、もう寝てるし」髪を拭きながら部屋に入って来たShintaroさんが声を掛ける
「あぁ、ちょっとこのソファがあまりに気持ち良すぎて、すぐに眠くなるんだよね」
「もし、お腹空いていないなら、もう横になって寝た方がいいよ?」
「うん、そうする、すごく眠くなって来ちゃった」
「このベッド、とっても寝心地いいよ、きっと、明日は元気いっぱいだよ」
「そうだな、眠るまで傍にいようか?」
「いいよ、Shintaroさんも疲れているでしょぅ?」
最後の言葉が聞こえなくなり、見ると静かな寝息に変わっている
「余程、消耗してるんだな、お疲れさん」Shintaroさんは優しく髪をなでると部屋を出てリビングへ
オーナーの持たせてくれた紙袋には温めるだけにしたビーフシチュー、コーンや豆、海藻の入ったサラダ、おにぎり、フランスパン、パンナコッタにクッキー、炭酸水などが入っていた
(ふっ、Nanaの好きな物ばかりだな、オーナーはよくわかってる、食べたら怒られそうだな)
疲れているのに頭の芯が冴えている
(少しだけ飲もうかな)
冷凍のピザを温めて、ワインを飲みながら、長かった今日の日を思い起こしていた
(Nanaにここに来ないか?って言ってみようか、まぁ、来ないだろうけど)
ずっと願っていた解放、自由になって嬉しい反面、もう、繋いでいる物が無くなってしまったという喪失感なのか、得体の知れない不安が頭を過る
(七色に輝く光に包まれたNanaを見たかった、そんな風に言ったら、皆は母上と重ねて見ていると言うんだろうな、でもそれは違うんだけどな)
その日、そんなShintaroさんに、夢の中でお母上が優しく微笑んでいた、大丈夫、心配はいらないと言っているような、そんな気がした
朝の光が窓から滑り込む様に射して、秋晴れの空が澄んでいる
キッチンのカウンターにNanaからのメモが残っていた
”カフェに行く前に家に寄りたいので、少し早いけど帰ります、ご飯、ちゃんと食べてね、おにぎりと炭酸水は持って行きます、シチューとデザートは冷蔵庫にあるので、夜にでも食べて下さい”
カウンターの上にはカリカリベーコンとスクランブルエッグ、昨日のオーナーのコーンと豆のサラダ、フランスパンが用意されていた
「美味しそうだ」
お天気の良い空を眺めながら、美味しい朝食を食べて気分は軽く、Nanaの心遣いが嬉しい一日の始まりでした
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