わかりましたよ、何故なのかはね
話し声が聞こえて、重い瞼を上げるとまだ、大きな月が光っている
「やっと目が覚めたわね?大丈夫?」
「大丈夫です」
「意識が戻らないんじゃないかと心配しましたわ」
「もう少し、ゆっくりさせてあげたいところですが、そろそろ戻らないと」
「そうね、初めてのJinさんにとっても負担が重くなるわ」
「戻れる?」
「うん、行けるよ」
「ええ?また、あの歪んだ空間を通らないといけないの?」
「すみませんね、後、少しの辛抱ですわ、Jinさん」
真っ暗な闇の中に浮かぶ月と星々がクルクルと回り、いつの間にか遠く小さくなって見えなくなる
風の音なのか、何かが吹き荒れる音、カフェの壁時計の音が次第に大きく聞こえて来る
「うわっ、身体が重いな、首が回らないよ」
「お疲れ様でしたわね、大丈夫ですか」
「いやぁ、驚きだな、でも、まっ、肩の荷が下りた様でちょっと気が楽になったよ」
「皆さん、ありがとうございました」
「Nanaはまだ、少し休んでいなさいよ」
「Shintaroさん、Nanaを送って行って下さいね」
「それじゃ、俺はそろそろ帰るとするよ、また、コーヒー飲みに来るね」
「Jinさん、ありがとうございました」頭を下げるShintaroさんに親指を立てて答えるJinさん
「外まで送って来ますわね」オーナーKeiがJinさんと一緒に駐車場へと歩いて行く
「Jinさん、本当に感謝致しますわ、それに、Shintaroさんの前で敢えて、Nanaと呼ばずに気を遣って下さった事もね」
「そんな風に言ってもらって恐縮ですよ、でも、諦めたわけではないですよ」冗談っぽく笑顔で答えるJinさん
「でも、ShintaroさんがNanaにこだわる訳があるんですのよ、それはね」
「最後に彼の手が光った事でわかりましたよ、何故なのかはね」
黙って頷くオーナーKei
手を振って車の後ろ姿を見送り、カフェへ戻ると一気に疲れが出て来た様に感じる
「オーナーもお疲れでしょう、今日は早くお休みになって下さい」
「Shintaroさんが一番疲れていると思いますよ、今日は、本当によくやって下さったわ」
「そうね、Shintaro君、ありがとう」
Miyuさんが背中をポンポンと叩くとShintaroさんは気が抜けた様に椅子にストンと座った
「思い出したわ、あなたのお母上の事を」
オーナーKeiがMiyuさんと目を合わせて、Nanaの方にちらりと視線を投げる
「Nanaは気が付いている?」
「何をですか?何?」
「Shintaroさんのお母上はNanaと同じ七色の光のオーラを持つ人だったのよね?」
「え?そうなの?」
「それは、うん、そうです」
一瞬、Nanaの方へ目を向けて、逸らす
「Nanaの額に反応したあなたの手の光を見て、ああ、そうだった、って思い出したのよ」
「たぶん、私の中にもほんの少し、その、母から受け継いだ物があって、それに反応するんだと思います」
「そうね、私達ではあんな風に手が同化する様に光ったりはしないものね」
「Shintaro君、お母上は本当に特別な方だったわ、美しくて心が綺麗で優しい方だったのよ」
小さく頷きながら「でも、私を生んだ事が原因で病気になってしまったんですよね?侍女が話しているのを聞いてしまったんですよ」
「Shintaro君、例え、そうであったとしても、お母上はあなたが生まれて来てくれた事を一番幸せに思っていたわよ、だから、そんな風に考えちゃいけないわ」
「そうですわよ、まだ、私もお母上には出会えてはいませんけど、どこかで見守って下すってるわ」
何かを考え込んでいた様子のNana
「そう考えると、私は幸せなんだなって、大切な人が皆、今でも近くにいて私を守り、支えてくれているんだから」
「そうよ、Nana、あなたはラッキーなのよ」
「ささっ、Nanaもまだ不安定な感じだから、もう、帰ってお休みなさいな」
そう言って、紙袋に食べ物と飲み物を詰めてShintaroさんに渡すオーナーKei
優しく背中を支えながら扉を開ける
「あっ、Shintaro君、今日は、Shintaro君ところへ泊めてやってよ、夜中に何かあると怖いから、でも、今日は安静によ?いいわね?」
一瞬、ぴたっと止まる足取り、そして、次の瞬間に大爆笑になる、少し照れくさそうなShintaroさんと眉間にしわを寄せるNana
「姉上様ったら、本当にどういう才能のある方なんでしょうね」
「え~~だって、心配なんだもん」
爽やか過ぎる笑顔を残しながら扉の向こうに消えて行った
「Shintaro君は否定するかもしれないけど、Nanaに母上を重ねて見ているわね」
静かになったカフェのカウンターに二人
「それも仕方ない事ですわ、でも、これからどうなる事でしょうね、また、一つ心配事が出来ましたわね」
「そうねぇ、ねぇ、このまま、ちょっとワインでも飲んで行かない?」
「いいですわね、そんな気分ですわ、でも、姉上様、お元気な事」
「もう、慣れたわよ」
「ふふ、頼もしいですわ」
カフェの鍵を閉め、二人で秋の夜空に浮かぶ満月を眺めながら、ゆっくりと坂道を登って行くのでした
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