緊張で足がガクガクしてるわよ
気が付くといつもの様に大きな月が明るく辺りを照らしている
「気が付いたわね、気分はどう?」
「ちょっとぼんやりするけど、大丈夫です」
「もう少し、横になって休んでいらっしゃいな、今、薬茶を淹れますわ」
「ありがとうございます、良い香りがしてますね」
心配そうにのぞき込んでいる皆の顔が見える
「無理するなっていったのに」
「ちょっとは無理しなきゃ、私のために来てくれているのに」
「確かに、何が何だか分からない内に気を失ったよ、母上が言った様に鮮明だな、すごいね」
「そうでしょう?Jinさん」
「ささ、薬茶ですよ、元気がでるわ」
「菊の花が良い香りです」
「皆さんもどうぞ、少し喉を潤してね」
「ホント美味しいわ、ちょっと、この苦みがまたいいわね」
「懐かしいと言うのか、何と言うのか、私も何度も夢に出て来た風景ですが、ここまではっきりとはね」
「Jinさんにとっては幼少期から過ごした場所ですものね、懐かしさもあるでしょうね」
「頭がはっきりして来ました、もう大丈夫です」
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
皆で月明かりの下、広い宮中を歩くとあの夢に出てくる大きな桜の木の下を通る
「桜が咲いている」
「ふふ、記憶の中ですからね、この桜の木は姉上様とNanaと三人でよく見に来ましたわね」
「覚えています、王妃様が見上げて、舞い散る花びらを掌で受ける、そんなシーンが記憶に残っています」Nanaが嬉しそうに話す
「まだ、幼かったあなたはいつまでも離れなくて困ったものよ」とMiyuさん
「もう少しです、この裏の道を入った所に、小さな門があります」
Shintaroさんが先を知らせる
「へぇ~こんな感じだったかな、門から入った事がないからな」
「Jinさんも子供の頃から裏道や秘密の隠れ道を通っていたのでしょう?」
「まぁ、私達にとっては遊びの一つですからね」
「鍵が開きました」
門が開いて少し広い場所に出ると松明に照らされた堂の扉が見える
「じゃ、次は堂の鍵ね」
中に入ると薄暗い廊下に所々灯りが点っている、無言で進むと突き当りの両開き戸の前で廊下が終わる
「何かが祭ってあるかのような感じね、祭壇みたい」
「母上も入るのは初めてですか」
「そうよ、誰も入れないわよ、王妃様は王様と入った事があるでしょう」
「ええ、一度だけ、Shintaroさんのお父上、護衛隊長と、姉上様の旦那様、大臣とね、鍵を賜った時に」
「さぁ、これがその飾り棚です、鍵を開けます、Jinさん準備は良いですか」
無言で頷くJinさんが指輪に「頼むよ」と小さく言って軽く触れる
「引き出しを開けます」
「これが、その鏡」
皆、息を飲んで緊張が高まる、ShintaroさんがJinさんの方を見ると、小さく息を吐いてその鏡を取り出す
鏡蓋の呪文を指輪をはめた指で上から、そして下からなぞる
蓋に手を掛け、静かに外すとそこには数本のヒビが入ったぼんやりと鈍く光る鏡
Shintaroさんが手を近づけると、ピシピシと音を立て、ヒビが消えていく
皆の目が釘付けになって、驚きの表情が隠せない
Nanaが静かに前に出ると、待ち切れなかった様に鏡の曇りが晴れて行き、そして、その鏡に手を置いた瞬間、手から全身に光が走る
顔を歪めて耐えるNana、手から入り込んだ光が全身を包む頃、七色のオーラが揺れる様に光始めた
肩で息をしているNanaを支えながら皆の顔を見る、Jinさんが鏡に蓋をして組紐を結んだ
指輪をこする様に外し、組紐に通して手を放すと、一瞬、キラリと輝いた様に見えた
指輪も本来の居場所に戻り安堵しているのだろう、黙礼したJinさんが引き出しを閉め、鍵を掛ける
ふらついているNanaを抱きかかえたShintaroさんを先頭に、静かに堂を後にしたメンバーは、門を出るとその場に座り込んだ
「はぁ、緊張で足がガクガクしてるわよ」
「姉上様、本当ですわよ、息が出来ませんでしたわ」
しばらく歩いて先ほどの古い屋敷の中へ入って行く
「この屋敷はどこですか」Jinさんがきょろきょろしている
皆、やっと緊張が解れて座り込んだ
「ここは私達の生家の屋敷ですのよ、まぁ、勝手知ったる古巣ですの」
「なるほど、それで薬茶とかも頂けたんですね」
「もう一杯どうぞ、緊張した後はリラックス出来るこのお茶がとっても良いですのよ」
「Nanaは意識がもうろうとしているみたいね、大丈夫かな」
ShintaroさんはNanaを柔らかい布団にそっと寝かせ、布を水で濡らし、額の汗を拭う
「ちょっと熱があるみたいです」そう言って手をおでこに当てるとShintaroさんの手が七色に光る
「すごい、どうして?どういう事?」
皆、ただただ、驚いて目を丸くするばかりなのでした
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