この指輪とはお別れか
二杯目のコーヒーを淹れたところにドアベルが鳴り、Shintaroさんが到着
「お待たせしましたか?」
「お疲れ様ですね、いえ、大丈夫ですよ」
「Jinさん、お忙しいのにお呼び立てして申し訳ありません」
「いやいや、君も遅くまで仕事して来てるんだろう、お疲れさん」
「さ、Shintaroさん、先ずはコーヒーどうぞ」
「これでメンバーはそろったわね」
「皆さん、ありがとうございます、私のためにすみません」
Miyuさんが、Nanaの手をそっと取って頷く、無意識にNanaがShintaroさんの隣の席い座るとスイッチが入った様にShintaroさんが話し始める
「Jinさん、今回、Nanaを助け出す方法については聞いていますか」
「あ、いや、具体的にはまだ、まぁ、俺の持っているこの指輪が必要なんだよね?」
初めてみるその指輪に皆の目が集まり、一瞬静かになる
「王妃様から方法はお聞きかもしれませんが、ちょっと後から確認だけしましょう」
「初めての時は結構体力消耗するからね、まっ、男性だから大丈夫か」
「Miyuさん、男性でも結構きついと思いますわよ、特に今回は色々とね」
「へ~そうなんだ」
「Jinさんはどんな風に記憶を見る事が出来るんですか」
「この指輪はうちの代々の引継ぎ物の蔵にあって母からもらった物なんだ、母も同様で不思議な夢を見る人だった、でも俺は子供の頃から過去の記憶と交差する事が結構あって、この指輪をもらってからは段々それがしっかり見える様になって来たんだ」
「そう、Nanaと概ね同じ様な感じね、この子も物心ついた頃から色々と見えていた様だから」
「それじゃ、私達の鍵の役割はJinさんにとってはこの指輪って事なんでしょうね」
「鍵なんですか?」
「そうなんです、私達はその堂、棚、引き出しを開けるまでの鍵、ここに全部あります」
そう言うとそれぞれが順に鍵を出し始める
「建屋に入る門の扉の鍵はこれです」Shintaroさんがカウンターに置く
「保管庫の堂へ入る扉の鍵がこれです」Nanaが鍵を置く
「飾り棚の扉を開ける小さな鍵はオーナーの持っている鍵に一緒に付けてあるわ」Miyuさん
「そして、これが、そのMiyuさんが持っていた扉の鍵と鏡が保管してある引き出しの鍵ですわ」
最後にオーナーKieがカウンターに鍵を置いた
「こうやって見るとどれも歴史を感じる鍵だね、これだけ並ぶとちょっと圧倒されるね、で、これをどうするの?」
「その前に、もう一度王妃様の方から鏡から解き放つ方法をお願い出来ますか」
「入ってからでいいですわね、棚の中にある鏡には蓋があって、その蓋には呪文の様な物が文字型に彫ってあるから、Jinさんがその指輪をはめた指で上からなぞり、下まで言ったら下から上へなぞる、そうすると蓋が開けられるわ」
「上からと下からなぞるんですね」
「蓋が開いたら、鏡を割ってしまったShintaroさんが鏡に手をかざす、そうすると、割れた鏡がもとに戻るはず、その後、Nanaが鏡に手をかざすと中にいる自分が戻ってくるはずよ」
「なるほどね、色々と段取りがあるのね」
「その後はどうしたらいいんですか?」
「鏡に蓋をして、二つを繋いでいる組紐を結ぶ、最後に、その紐に指輪を通して引き出しに戻す、後は鍵をかけて出るだけね」
「そうか、この指輪とはお別れか」少し寂しそうに指輪を触る
「そうですわね、元々の場所へ戻してあげるという事でしょうね、でも、だからといってJinさんの力が無くなるのとは違いますわよ、あくまでも、この指輪の役割は鏡を守る事ですからね」
「そうですか、いや、これでやっと長年の後悔から解放されるかな、でも、罪は消えないよな、ごめんな」
「そんな風に思わないで下さい、Jinさん、私はもう大丈夫ですから」
「後のメンバーは何度も一緒に記憶に飛んでいるので、大丈夫ですよね?Jinさんのケアだけしっかりお願いします」
「Nanaと見に行くとすごいわよ、きっと驚くわよ」
「ケアってそんな、それにそんなに何が違うんですか?母上」
「まぁ、お楽しみによ」
「もう、Miyuさんたら」
「じゃ、その前にコーヒー飲ませてよね」
「さ、コーヒー覚めてしまいますわ、Jinさんもどうぞ」
「そうだな、心の準備にはこのコーヒーが合う、いい味だ」
Shintaroさんが気遣う様にNanaの方を見ると何気ない笑顔を向ける、不安な気持ちを隠そうとしているのがわかる、そっとNanaの背中に手を当てると
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「毎回、一番負担をかけてしまうから、今日は、無理しないで」
「わかった、無理しないよ」
そんなやりとりはいつもの事だが、ひとり、気になっているJinさん
「そんなに大変なんだ」
「まぁ、あの二人は大変だけどね、私達は大丈夫よ、そこまでの負担はないからね、心配しないで」
一頻り、コーヒーを飲み、静かに心落ち着ける時間が過ぎる
「それじゃ、そろそろ行きますか」
そう言って、皆の顔をみると、心を決めた様子が伺える
大きな掌に自分の鍵を置くShintaroさん、続いてNanaが鍵を乗せる、Miyuさんが小さな鍵が付いた大きな鍵を乗せると大きく息を吐いてShintaroさんが強く握る、次の瞬間にNanaが両手でしっかりと包むと素早くMiyuさんがNanaの手を握る
「Jinさん、早く指輪はめて下さい」
慌てて、指輪をはめるとオーナーKeiがその手を取り、一緒に乗せた
「片手にしろっていっただろう」
Shintaroさんの声の最後の方が聞き取れなくなって、大きく歪んだカフェの壁と加速する落下感に気が遠くなって行くのでした
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