101st Episode 『本当の気持ち【 Honest Feelings】』

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やっと笑った

言葉の無い、ただ、静かな空間に優しい音楽が小さく流れている、信号待ちで停まると、街の雑踏が微かに聞こえる

Shintaroさんの横顔を見つめて、そっと肩に手を伸ばすと、優しい瞳の奥に悲しみが溢れていた

「手に触れると、また、記憶に入り込んでしまいそうで」

「いつからそんな事も出来る様になったの?」

「無意識にあの日、ワインを開けようとするShintaroさんの手を握った時に初めて」

「そうか、俺のエゴがそんな力も引き出してしまったのかもしれないな」

「ううん、私って本当に何も知らないんだなって、Shintaroさんにばかり負担をかけてしまっている」

「そうじゃないよ、Nanaを守りたいって、聞こえはいいけど、本来なら、ちゃんとNanaの意思を確認するべきだし、母上にも相談するべきだった、本当にすまない」

「きっと、オーナーが解き放つ方法を思い出してくれるから、待ってみよう?」

「NanaはJinさんが若様だとわかったのはいつ?」

「最初はよく見えなかったけど、カフェに何度か来て話す内に趣味が合って、仲良くなって来た頃から、オーラが見え始めた、っていうか、たぶん、Jinさんの方が出してきたんじゃないかって思う、それで、段々、なぜかわからないけれど、本当なのか確かめたくなった」

「それで、飛行機を見に行こうって誘われた時にオーケーしたの?」

「何となく、近い内に確認する機会は来るだろうと予感していたの」

「それで、一緒に行ってわかった?」

「うん、やっぱり王室の人、聖骨のオーラは金色で強いから間違いないって思った」

「でも、本当の所、Shintaroさんの話しを聞いて確信したんだ、オーナーにも言ったけど、Shintaroさんの車とすれ違った時ね、今思うと二人に面識があったんだって、だって、普通はあの時の私の慌てようを見たら何か言うよね?彼氏なの?とか彼氏いたの?とか」

「そうだな、しっかり目が合ったからな」

「なのに、その事には少しも触れず、まるで予測していたかの様に落ち着いていたし、何となく口元が笑っていた様な気もする、その後もずっと私を気遣って優しかった、あの後、ずっと、どうしてだろうって考えてた」

「そうか」

「うん」

「着いたよ」

「ちょっとうち寄ってかない?」

「いや、Nanaも疲れているだろう?帰るよ」

「じゃ、Shintaroさんのマンションに今日も泊まる」

「どうした?ふっ、心配しなくても大丈夫だよ、それに、これ以上、心の中をNanaに見られたくないしな」

「い~や、絶対に一緒に居る」

「困った妹君だな」

「うちだと狭いし、天井も低いから嫌でしょう?」

「そんな事はないけど」

「あっ、散らかってるから?それとも色々、物があってごちゃごちゃしてるから?」

「あはは、まぁ、言う程散らかってはいないよ、いつも、訳の分からないものがあるのは本当だけど」

「やっと笑った」

「うん?」

「あそこのパーキングに停めてから来て」

車から降りて、斜め向かいにあるコインパーキングを指す

「いや、明日は仕事だし」

「わかった、じゃ、何か作るよ、Shintaroさん夕飯食べて無いでしょ?」

「まぁ、そうだけど、家に帰れば何かあるし」

「ちゃんと食べて、そしたら帰ってもいいよ」

車をパーキングに停めてNanaの部屋を開けるとバタバタと片付けている

「へへ、ちょっと散らかってた、Shintaroさんの部屋とは大違い」

「全然いいのに」

「ちょっと楽にしててね、テレビでも見る?ビデオとかもあるよ?」

「何か手伝おうか?」

「いいから、座っていて」

狭いキッチンで手際よく料理をするNanaの姿が見える、確かに部屋全体が見渡せる広さ、が、今は心地良い

棚やデスクの隅には、可愛かったとか、面白かったからとか、アメリカの雑貨屋やアンティーク露店などで買った小物が並んでいる

一緒に出掛けた時に買った物もあって、ふと、アメリカにいた頃を思い出しながら手に取って見る

「あっ、それ、憶えてる?バーンズストリートで買ったのだよ、一緒に見てた時に」

ニッコリ笑って頷く

ベッド側の座椅子に座って背を持たれかけると、ふんわりとNanaの香りがする

「消化の良い、夜遅くに食べても良いメニューだからね」

「最近、すごいね?これもオーナー直伝のレシピなの?」

「うん、そうだよ、カフェが終わってから、小腹が空いたときとかに作ってくれるの」

「お待たせ~豆乳のアサリ水煮缶を使ったチャウダー、野菜は適当に冷蔵庫に合ったものを使ったの、後、大根とアボガドのマイタケソテーソースサラダの出来上がり、フランスパンかロールパンどちらも合うよ」

「美味しいそうだ、しっかし早いね、腕上げたじゃん?」

「そうでしょう?オーナーから教わるのは全部、簡単で直ぐ出来るレシピなんだよ」

「うん、美味しい!」

「そう?良かった、いっぱい食べて」

Shintaroさんは、今、Nanaはどんな気持ちなのか、本当の気持ちが知りたいと思った

そんな心を隠しながら、嬉しそうに食べるところを見ているNanaに笑顔を返す

「すっかりご馳走になったな、美味しかったよ、ホント」

「そう言ってもらえて嬉しい」

「もう、遅いし、そろそろ帰るよ、Nanaも休んで、ありがとうな」

そう言って立ち上がり玄関へ向かう

Nanaが後ろからShintaroさんの背中を抱きしめる、手に触れない様に

「少しだけ、このままで」

優しい時間が流れ、振り向くと心配そうなNanaの顔が見える

「じゃ、またな」そう言って頭をポンポン、名残惜しい気持ちを振り切って部屋を出たのでした

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