一緒に帰ろう?
そっとShintaroさんの前に淹れたてのコーヒーを置く、顔を上げると優しく頷く
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「Shintaro君は若様や弟君と顔見知りだったの?」
「訓練を終えたある日、突然、話しかけられたんです」
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「誰だ?今日の馬当番は?まだ出ておるぞ」
「あ~しまった、忘れてた」
「ここは片付けるから、早く行っておいで」
「兄上、ありがとう、終わったら戻ってくるから、じゃ、行くね」
「まぁ、いつもの事だろう、要領が悪いのは、ふっ」
一人、弓の的の片づけをしていると、声を掛ける人、若様が現れた
「そなたら、毎日、訓練に精を出しておられる、一つ、そなたの妹君の事で頼まれてくれぬか」
「え?妹?ですか?」
「よく遅くまで居残り訓練をしておろう?面倒見の良い兄と頑張り屋の妹に感心しておる」
「はぁ、何でしょう?」
「妹君に婚姻の申し入れをしたいのだが、そなた、取り持ってもらえぬだろうか、お母上に話しを通して貰いたい」
「え?」
「兄として色々思う所もあろうが、王室に嫁ぐ事は妹君にとっても悪い話しではなかろう?よろしく頼む」
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「へ~~若様がねぇ、そんな事があったんだ」
「政治の犠牲になる婚姻がほとんどだったあの時代に、縁遠くなる様、男の子みたいに育てたんでしたわね」
「当時、王室からの婚姻の申し入れは絶対だったからね、断るなんて皆無よ」
「でも、若様は正式に通す前に話しをしてきただけ良心的ですわ、きっと無理やりに婚姻させるのは嫌だったんじゃないかしら」
「でも、Shintaro君、私、何も聞いてないわよ?」
「話しを進めたくなかったんですわよね?Shintaroさん」
「すみません、話を持って行ったら最後だと思ったんです、その頃、訓練生の中にも何人かは同じような事を言って来た人もいました、今度の武闘大会で優勝したら申し入れると言って来た仲間もいたんです、だから、気持ちが焦ってしまって」
「ほう、中々、人気あったのね?Nana」
「そんな事知らないですよ、その頃は必死だったし」
「そう、それでShintaroさんは今回の事を思いついたんですの?」
「いえ、その様子を弟君が見ていたんです、それで私に良い方法があると」
「そうなんだ」
「実は、私は弟君をそのずっと前から知っていたんです」
「あっ、あの時の人?Shintaroさん」
「そうだよ」
「訓練生とお祭りの夜に、野外訓練の後、街を見て行こうって事になって、そしたら暴漢に襲われている人がいたんだよね?それを助けたんだよね、確か」
「うん」
「その前に、もっと子供の頃、同じように街で虐められている子を助けた事があったんだ、王子の中でも最下級の彼はいつも虐められていたんだ、それから時々、面倒を見ていた」
「へぇ~縁があるって事なのかねぇ」
「彼は、王族の中では評判が悪くて孤立していたけど、彼なりの事情があって、私を頼っていたというか」
「なるほどね、それで、いつも助けてもらってる兄貴分のために何かしたいと思ったんだね」
「その時、初めて鏡の事を聞きました、そして、その若様が盗んだ鏡を使えば、婚姻を諦めるだろうと考えたんです」
「そうだったんだ、どうして言ってくれなかったの?」
「言えなかった、それに、その時は鏡の力や本当の意味を知らなかったんだ、閉じ込めるという意味も、解き放つ方法がわからないという事もその時は考える余裕がなかった」
「Shintaroさんにしてはちょっと考えられない事よね、私に相談してくれても良かったのに」
「姉上、それだけNanaの事を守りたかったという事でしょう、ね?Shintaroさん」
「本当に申し訳ない事をしたと思っています、必ず、鏡の中から抜けられる方法を見つけ出しますから、ご協力頂けないでしょうか」
「もちろんよ、皆で何とかしないと」
「たぶん、王妃様は何か知ってるんじゃないですか」
「私もそれを思い出していたの、王様がお話しされていた事があったわ、確か、鏡蓋の呪文をなんとかするんだったけど、ちょっと待ってね、そこから先が」
「呪文?何それ」
「鏡蓋に呪文の様な文字が彫られているんですが、読めないんです、それを解明すれば方法がわかるのではないかと思います」
「少し時間をもらえないかしら?今晩、一晩、簡単には思い出せないんですのよ」
皆は頷いて、コーヒーをひと口
「はぁ~ホント、美味しいコーヒーだわ」
すっかり、落ち込んでいるShintaroさんの肩をMiyuさんがポンポンと優しく叩く
オーナーKeiは首を傾けて何かを思い出そうと必死に空を見つめている
さっきからずっと何かを考え込んでいる様子だったNanaが、何かを決意した様にShintaroさんに近づいて背中に手を回す
「Shintaroさん、迎えに来てくれたんでしょう?一緒に帰ろう?」
「そうね、それがいいわ、送ってあげて」
「ささ、後はやっておきますから、お帰りなさいな」
Shintaroさんは二人に黙礼し、Nanaと共に扉の向こうへ消えて行ったのでした
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